第百四十話 真面目な話をしよう
ディアローズが大変なことになってしまったので、この日の面会はそのまま終わってしまった。次に輝星が面会にやってきたのは、その数日後のことだった。
「な、なんだ。やっと来たのか。もう来てくれないものかと思って、心配しておったぞ」
輝星を出迎えたディアローズは、赤面しながら彼の様子をチラチラと伺う。その目つきは、まるで恋人に向けるような色っぽいものだった。ちなみに、今回は前のような重拘束ではなく手錠だけのラフな捕虜姿だ。
「いや、そう頻繁に面会をさせてるわけがないでしょう? あなた、自分がどれだけ危険な立場に立ってのか理解しているのですか?」
半目になりながらそう苦言を呈したのは、輝星に同行してきたシュレーアだった。今回の面会は彼女と輝星の他、元四天のテルシスもついてきている。前回のような私的な面会ではないことは明らかだ。もちろんディアローズもそんなことは分かっているので、手錠のはまった両手を降参するように上げて軽く笑う。
「むろん、理解しておる。疑われるようなことをすれば、立場が悪くなるのは
命乞いのために半泣きで土下座した人間とは思えないような、軽く明るい口調でディアローズは言った。その様子にシュレーアは苦いため息を吐いた。心境が変化するような出来事があったのは明らかで、そしてそれは先日の面会が原因であることは火を見るよりも明らかだ。
それについて気にならないと言えばウソになるが、なんだか怖いので結局シュレーアは今日まで輝星にそれを聞くことはできていなかった。キスのひとつでもしてやったのではないかと、彼女は考えている。
もっとも、輝星は自分の恋人ではないのでそれにどうこう言える筋合いはないし、自業自得とはいえひどく落ち込んでいた人間が元気になったのならそれはそれで良し。それがシュレーアの出した結論だった。別にシュレーアとてディアローズを苛めたいわけではないのだ。
「忠告しておきますがね、裁判でなんとか減刑を勝ち取らなければ貴女は死ぬしかないんです。そこのところを、しっかり頭に入れておくように」
とはいえ、やはり面白くはないのでしっかりと釘をさしておく。言われた方のディアローズはさすがに顔色を少し青くし、でれでれとしていた表情を引き締めた。
「う、うむ。あいわかった。……そういえば、諜報部から聞いたことがある。皇国は皇家の権力基盤が弱く、各省庁が言うことを聞かないことがよくあるとか。……もしや、裁判所も?」
「はい」
実家をナチュラルに罵倒されたシュレーアはぶぜんとした様子で頷いた。
「私がただ単にあなたの助命を嘆願しただけでは、判決は覆りませんよ。あなたを生かしておくべきだと、なんとか皇都の裁判官たちを納得させる必要があります」
「三権分立から考えれば当たり前なのでは……?」
為政者サイドの要請でポンポン判決が覆るような裁判は、それはそれで怖い。
「地球式とは違うのだ、我々のやりかたは。うむ、しかし、参ったな……皇女であるシュレーアさんが助命すると明言したのだから、完全に大丈夫だと思っておったぞ、
まさかのシュレーアさん呼びに、当の本人が一番ぎょっとした。なにしろ普段の態度が態度なので、他人をさん付けで呼ぶことがこんなに似合わない人物もそうそういないだろう。
「だからこそ、その対策を相談しようというのが今日の趣旨なわけだ」
空気の読めないテルシスが、豊満な胸を強調するように両腕を組んで言い放つ。ディアローズは口をへの字にして、彼女を睨みつけた。
「いや、そういう要件ならシュレーアさんがくるのは分かる。輝星も来てくれたのが嬉しいので、それはそれで良い。が、貴様はなぜついてきたのだ? 戦闘だけではなく司法まで専門分野だったのか?」
テルシスも別に頭が悪いわけではないのだが、なにしろ重度の戦闘狂なので戦争以外はてんで役に立たない。いったい何をしに来たのか気になるところだった。
「いや、単に廊下を歩いていたら彼らと出くわしたのでついてきただけだが」
「そんな気軽に来るような場所ではないだろう!? というか、ここは皇国の艦だというのになぜ貴様がその中をうろうろしているのだ!」
いくら作戦の都合上手を組んだとはいえ、もとは交戦状態にあった軍の部隊同士なのだから仲良くやれるはずもない。お互い、自分の艦に引きこもっているのが普通のはずなのだが……。
「いや、なんというか……テルシスさんはいつの間にかこの"レイディアント"に住み着いてしまって……修理の終わった"ヴァーンウルフ"も勝手に持ち込むし……」
「ネズミか何かか、うちの元最高戦力は!」
シュレーアの言葉に思わずディアローズが叫んだ。相変わらずフリーダムにもほどがある。黙っていれば精悍な長身の麗人なのだが……。
「ま、まあそんなことはどうでもよろしい! 彼女は帝国側の上位貴族なので、何か役に立つのではないかと思って連れてきただけですので!」
「な、なるほど」
とりあえず、ディアローズは納得して見せた。これは、ディアローズ以外の帝国貴族の意見も聞きたかった、という事だろう。
「しかし、裁判か。すっかり安心しきっていたから、完全に気を抜いておった。どうしたものか……」
頭を切り替えて、ディアローズは唸った。なにしろ彼女は人望がないので、何を言っても命惜しさにデタラメを言っていると思われる可能性がある。
「そのことなんだけど、最初に一つはっきりさせておいた方がいいことがある」
そこで声をかけたのは輝星だった。彼は真剣な目つきで、じっとディアローズを見る。
「な、なんだ?」
「終末爆撃の総責任者だよ。市民を爆撃しろと命令した最上位者は、いったい誰なんだ? その責任の所在が、この件の一番重要な点になると思う」
「んんっ!?」
ディアローズは渋い表情になった。
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