第百十話 凶星VS四天(1)
四天の三機が、輝星に向かって突撃してくる。連装ガトリング、連装メガブラスターライフル、そしてブラスターマグナムの乱打が輝星を襲った。即座にスラスターを吹かし、山を盾にして攻撃を回避した。
「皇族二名は……サキの方か!」
ディアローズとヴァレンティナは輝星の方には向かってこなかった。僚機を足止めして輝星は四天に任せる算段なのだろう。
「俺がこっちを始末するまで持ち堪えられるか?」
「誰にモノ言ってんだ! 持たせるどころか叩き落してやらぁ!」
サキのヤケクソじみた声に、輝星はクスリと笑う。
「じゃあ任せた!」
「あいよっ! ……輝星こそ気を付けろ、四天なんて名乗ってる割りには三機しか居ねぇ。向こうには何か策があるはずだ」
「だろうね、ビビッて逃げたんじゃなきゃあっ!」
急迫してきた"ヴァーンウルフ"の長剣をフォトンセイバーで受け止めつつ、輝星が叫んだ。
「心外だな、拙者を前にしてこの場にいない者の話をするとは!」
「申し訳ない!」
文句を飛ばしてくるテルシスに、輝星は思わず笑う。彼女との交戦もこれで三回目だが、その剣の鋭さは確かに油断できるものではない。その上、敵は彼女だけではないのだ。計四門の強力な火砲を備えた重装型ゼニス、"パーフィール"がその苛烈な火力をいかんなく発揮する。
「ええい、ちょこまかと!」
「背中撃ったらタダじゃおかないデスからね、馬鹿貴族!」
「だれが馬鹿貴族ですの! この馬鹿平民!」
おまけに、その火線を縫うようにして動きつつ的確にビームマグナムを撃ってくる"ザラーヴァ"まで居るのだから、さしもの輝星も反撃する余裕がない。なんとか回避しつつ、打ち返せるビームはセイバーで弾いていく。
「うわははははっ! やりにくいなあここは!」
前の戦いでは、身動きのとりづらい森の中ということで輝星はかなり有利に立ち回ることが出来た。しかし今回は、山岳地帯とはいっても山頂付近なので身を隠せそうな遮蔽物はほとんどないのだ。輝星としては戦いにくいことこの上ない。
「おっとぉっ!」
雪の積もった斜面を蹴り、スラスターを全開にする。雪面をガトリングの暴風が薙ぎ払い、小さな雪崩が起きた。もうもうと上がる雪煙から逃れつつ、追撃のビームマグナムを跳ね返す。
「何度も同じ手をっ!」
機体を急旋回させてそれを回避するノラ。その隙を補うように、再びテルシスが接近してくる。スラスターを全開にした弾丸のような刺突だ。剣の切っ先が陽光を反射し、ギラリと輝いた。
「速い……が!」
輝星はそれをフォトンセイバーで巧みにいなし、相手の機体を蹴るようにして機体の後方に回り込んだ。"カリバーン・リヴァイブ"の頭部機銃が火を噴き、"ヴァーンウルフ"の背部に備え付けられたメインスラスターのノズルが一基破壊された。
「流石だ、興奮させてくれる!」
見事なカウンターを決められたというのに、テルシスは歓喜の声を上げて笑った。しかし輝星にはそれにこたえる余裕などない。推進剤の残量が少ないことを知らせる警告音が鳴り響くコックピットで、両手の操縦桿をぐっと引く。白亜の機体が真っ青な空の下宙返りし、"パーフィール"の猛烈な弾幕を縫うようにして回避する。
「ちいっ!」
接近しようとスラスターを焚いた"ザラーヴァ"を、輝星の射撃が制止する。恐ろしく正確な照準のビームが、"ザラーヴァ"の腹部を叩いた。その分厚い装甲によってあえなく弾かれるものの、間髪入れずに発砲された二射目が同じ位置に着弾し、貫通こそしないものの装甲面が赤熱した。
「このっ!」
とどめの三射目をなんとか回避し、ノラが叫んだ。その整った顔には大量の冷や汗が浮かんでいる。回避が一瞬遅れれば、"ザラーヴァ"は落とされていただろう。
「流石に勝負を急ぎすぎたか……!」
だが、追い詰められているのは輝星も同じだ。ブラスターライフルの残弾はあと一発しかない。同じ手はもう使えないということだ。さっさと相手の数を減らし、サキの救援に入らねばならないという焦りが彼の中にはあった。
強がっていたものの、視線の端で見えるサキの戦いぶりはかなり切迫したものだったからだ。消耗した機体で圧倒的に性能が上の皇族専用機二機と戦っているのだから、むしろかなり善戦しているといえる。しかし、長く対抗し続けるのは難しいだろう。
「不本意ながら、あなたに単騎で立ち向かうのは難しいと理解していますので。卑怯と笑いたければ笑いなさい!」
そんな輝星の苦境を察したエレノールが、同情と畏怖が混ざった複雑な声で言った。最強クラスの機体とパイロットが三人そろって、やっと膠着状態に持ち込めているのだ。状況としては異様というほかない。もはや、エレノールの中には四天会議の時に見せたような慢心は残っていなかった。
「笑いはしないが楽しいやらしんどいやら! ああ、もう!」
遠くで戦うサキの方をチラチラと見ながら、輝星が叫んだ。このままでは、サキを援護するどころかじり貧だ。輝星の額を、冷や汗がタラリと流れた。
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