第六十九話 天轟(1)
時は戻って数十分前。レイス星系の接続宙域に、一機のストライカーが
「
当然、レイス星系の接続宙域は皇国の精鋭部隊によって封鎖されている。
「烏合の衆……ふん、この程度でワタシを止められると? 舐められたものデスね」
容赦なく放たれる射撃を、ノラはアクロバティックな機動を繰り出し回避していく。計器の加速度計がすさまじい値を表示しているが、ノラの表情は涼しいものだ。
「こいつ、只者じゃないわ!」
「こんなのを通したら殿下たちがヤバイ! 絶対に行かせるなよ!」
進路をふさぐように"クレイモア"数機が"ザラーヴァ"の前に出てくる。ブラスターライフルとショートマシンガンが吠え、無数の砲弾がノラを襲った。
「ハッ、有象無象どもが。このノラ様の邪魔をしようなんて、百年早いんデスよッ!」
向かってくる砲弾を、ノラは紙一重で躱していく。しかしその動きには余裕があった。相手の攻撃を完全に見切っているからこそ、最低限の動きのみで回避できるのだ。
「お返しデスよッ!」
二挺の拳銃が同時に火を噴いた。放たれたビームは攻撃を仕掛けた二機の"クレイモア"のコックピットを軽々と貫く。
「そんな、一撃で!?」
「あいつの拳銃、ただのブラスターピストルじゃないぞ!」
皇国兵に動揺が広がった。通常、この手の小型火器はストライカーの正面装甲を一撃で貫通するような威力はないはずだ。
「くそっ! 中途半端に離れてちゃラチが開かない! あたしが突っ込む!」
「あっ、子爵! まずいですよ!」
豪華な装飾を施された特別仕様の"クレイモア"が、ロングソードを抜いて突っ込んできた。かなりのチューンが施されているらしく、その突撃スピードは量産機とは思えないほど速い。
「軽率軽率。いやあ、馬鹿は嫌デスね」
だが、ノラはそれを冷ややかな嘲笑とともに迎え撃った。上段から振り下ろされるロングソードを右手のブラスターマグナムに装着された小ぶりな銃剣で受け流し、そのまま流れるような動きで左手の拳銃の砲口を"クレイモア"のコックピットにピタリと向ける。
「さよなら」
真紅のビームが無慈悲に放たれた。死体も残さず蒸発したであろう敵パイロットに憐憫の一瞥をくれてから、ノラは再び獰猛な笑顔を顔に張り付ける。
「さっさと通してくれりゃあ見逃してあげてもイイんデスがね?」
「子爵の仇だーッ!」
マシンガンを乱射しながら、一機の"クレイモア"が突撃してくる。
「はぁ……」
ため息と同時にトリガーを引くノラ。彼女の撃墜スコアがさらに一つ増えた。
「化け物め!」
「囲め囲め! 飽和攻撃だ!」
しかし皇国側も精鋭部隊だ。この程度のことで士気は下がらない。むしろ仲間を討たれた怒りで燃え上がり、攻撃が激しくなるほどだ。
「勤勉なこと」
呆れと憐みの混じった表情でノラは吐き捨てた。
「仕方ありませんね。少し大人しくなってもらうデス」
ブラスターマグナムの猛射が"クレイモア"隊を襲った。射撃速度は速く、そしてその狙いは極めて性格だ。皇国軍機が次々と叩き落されていく。
「おっと」
そこで、右のブラスターマグナムが弾切れになった。自動で空の弾倉が排出されると同時に"ザラーヴァ"のコックピットに警告音が鳴り響く。これ幸いと三機の"クレイモア"がロングソードやフォトンセイバーを抜いてとびかかってきた。
「ふっ」
小さく息を吐いて、ノラは左のブラスターマグナムで応射した。赤い閃光とともに一機が墜ちる。しかし二射めは間に合わない。横薙ぎのフォトンセイバーの一撃を宙返りの要領で回避すると同時に、右腕の肘に装備されたサブアームが予備マガジンをブラスターマグナムに叩き込む。
「おしまい」
左右同時に放たれたビームが二機の"クレイモア"を貫く。一瞬の早業だ。
「近接戦は無理よ! 性能も腕も違いすぎる」
「とはいえあの武器では遠距離戦は辛いはず。支援隊! 火力を回せ!」
皇国側の指揮官の命令により、大口径の固定式ブラスターカノンを肩に装備した支援型ストライカー・"パルチザン"の部隊が"ザラーヴァ"に砲撃を開始した。
「ふん」
ひらひらと砲撃を回避しつつ、ノラは嘲笑する。
「確かにこの"ザラーヴァ"は遠距離の敵には無力デス。しかし……」
ノラがフットペダルを踏み込むと、"ザラーヴァ"の背部に装備された大型の推進ユニットが莫大な推力を発生させる。青い軌跡を残して、"ザラーヴァ"は弾丸のように
「なっ……! なんてスピードだ! 支援隊、後退しろ!」
「遅いんデスよねえ! 判断がッ!」
慌てて退こうとした支援隊に"ザラーヴァ"が猛然と襲い掛かる。踊るような軌道とともに二挺のブラスターマグナムが吠え続け、そのたびに皇国機が撃墜されていった。
「さてさて、こんなものデスか」
五分もしないうちに、支援部隊は全滅した。コックピットでノラは満足そうに頷き、周囲を確認する。まだまだ敵はいるが、さすがに勝てない相手だと理解したらしく積極的に攻撃してこない。
「それじゃあ、任務に戻ることにしましょう。ワタシは忙しいので、こんな場所で足止めされている場合ではないのデス」
そういって"ザラーヴァ"はスラスターを全開西、戦域を離れていく。追跡する皇国軍機もいたが、彼我の推力はあまりに違いすぎる。あっという間に遠くへ飛び去ってしまった。
「なんてことだ……」
後に残された皇国軍は、呆然とするしかなかった。
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