第六十八話 歩行要塞攻略(5)
「まずはこの厄介なシールドを破壊する」
対空ガトリング砲の火線を軽やかに回避しながら、輝星が決断的に言い切った。機長の推察通り、ストライカー三機の火力では"ヴァライザー"に致命的なダメージを与えるのは不可能だ。
「斥力ジェネレーターを破壊するつもりですか。なるほど、だから私を……」
ニヤリと笑ってシュレーアは頷いた。"ミストルティン"は火力特化のゼニスだ。破壊力には自信がある。
「一点突破だ。斥力ジェネレーターは構造上重装甲にはできない!」
輝星はそう言いながら、弾数の減った対艦ガンランチャーを"クレイモア"のリャカ少尉に投げ渡した。彼女は当然のようにそれを受け取り、代わりに弾薬がフルロ-ドされた別の対艦ガンランチャーを返してくる。相手が相手だけに、リロードの時間すら惜しいのだ。わざわざリャカ少尉を連れてきたのは、弾薬運搬とこのようなサポートを頼むためだ。
「了解、行きます!」
"カリバーン・リヴァイブ"と"ミストルティン"がスラスターを吹かし、一気に加速した。目指すは
残り少ない対空ガトリングが弾幕を張るが、交戦開始時と比べればあまりにも頼りない火力しか残っていない。そしてその数少ない火点も、三機の反撃によって次々と破壊されていく。
「あそこですね」
シュレーアが指さした先には、メッシュ状の防弾カバーで覆われた円筒形のユニットがあった。大きさはストライカーよりもやや大きいくらいか。斥力で防御シールドを形成する場合、その発振器は外部に暴露されている必要がある、完全に防御することは難しいので、ああいったカバーをつける以外に方法がないのだ。
「破壊します!」
"ミストルティン"の全火力が一気に発揮された。肩のブラスターカノンに、腕で保持したヘビーマシンガン。そして腰と脚に取り付けられたミサイルランチャーが同時に目標に向かって飛ぶ。輝星もそれに続き、対艦ガンランチャーを連射する。
猛烈な射撃にされた防弾カバーは、巨大要塞の弱点を守っている割にはあっけなく破壊された。ビームによってぐずぐずに溶かされた表面に弾丸の雨が降り注ぎ、中身の斥力ジェネレーターごとスクラップ未満の鉄くずと化す。
「斥力ジェネレーター、破壊されました!」
「ア゛ア゛ーッ!! あのハエ共!!」
機長が真っ赤な顔で叫ぶがもう遅い。輝星が鋭い声で命令を下した。
「砲兵隊! 十秒後に
「了解!」
サキらの奮戦によりいまだ健在の砲兵隊からは、頼もしい返事が返ってきた。輝星ら前衛部隊は誤射を避けるために"ヴァライザー"から急いで離れた。帝国ストライカー隊が妨害するべくブラスターを盛んに撃ちかけてくるが、輝星はフォトンセイバーでそれらをすべて弾き飛ばす。そしてお返しとばかりに対艦ガンランチャーを発射した。
「そんなノロマ弾で!」
帝国パイロットはにやりと笑いながらそれを回避したが、その避けた先に滑り込むようにして二発目の対艦ミサイルが飛来する。
「うわーっ!」
対艦ミサイルの威力はストライカー相手にはかなりオーバーキルだ。下半身を引きちぎられるようにして喪失した"ジェッタ"が悲鳴を上げながら吹き飛ばされていく。
「全機、
砲兵隊の隊長の鋭い声が無線から聞こえてきたのはその時だ。大量の太いビームが"ヴァライザー"の上部をしたたかに打ち据える。
「被害報告!」
「損傷軽微! ほぼ無傷です!」
しかし、"ヴァライザー"の装甲は強固だった。表面が赤くなり、やや抉れているものの貫通には至らない。砲兵隊員の幾人かが落胆のため息を吐いた。
「流石"ヴァライザー"だ! なんともないぞ!」
一方ご満悦なのは機長だ。満面の笑みでコンソール・パネルを叩き、快哉を叫ぶ。
「北斗さん!」
「大丈夫だ!」
心配そうなシュレーアの声に、輝星は自信ありげな表情で再びリャカ少尉と対艦ガンランチャーを交換する。そのまま小惑星の地表を蹴り、一気に上昇した。
「やらせるな!」
護衛の"ジェッタ"がその動きを阻止すべく弾幕を張るが、輝星はセイバーでその射撃を叩き落すことでスピードを落とすことなく"ヴァライザー"の真上まで到達した。
「く、くそっ、化け物め! 何をする気だ!」
「こうするんだよッ!」
機長の叫びに、輝星は無線もつながっていないというのに答えつつ対艦ガンランチャーを連射した。マガジンに装填された弾薬をすべて撃ちきる。そして、動きの鈍い"ヴァライザー"にそれを回避する方法はなかった。すべての対艦ミサイルが、今だに赤熱している先ほどの砲撃の被弾痕へと命中した。
「ちぇすとーッ!」
対艦ガンランチャーを投げ捨てるなり、輝星はフォトンセイバーを両手で握りなおしスロットルを全開にして"ヴァライザー"に突っ込んだ。
「うわっ! 誰か止めろ!」
叫ぶ機長だが、輝星を止められるものなどどこにも居なかった。緑色の光刃が被弾でボコボコになった装甲に突き刺さる。溶断により一瞬で粒子コンデンサの中身を使い切ったフォトンセイバーがビームの発振を止めると輝星はそれを投げ捨て、代わりにその出来たばかりの小さな穴にブラスターライフルの砲口を当てた。
「これで終わりだッ!」
発砲。装甲さえ抜ければ、あとはビームを阻むものはない。高圧粒子が"ヴァライザー"のエンジンを撃ち抜き、高速回転していた相転移タービンが破滅的な音を立てつつ停止する。
「メインエンジン停止! これでは主砲が発射できません!」
「あ……あ……」
砲手からの報告に、機長は思わず絶句してしまう。サブエンジンのおかげで完全に電源が切れたわけではないが、これではまともに移動も攻撃もできない。そうなれば、"ヴァライザー"など巨大な棺桶に過ぎない。
「お、終わりだ……なにもかも」
機長ががっくりとうなだれると同時に、皇国軍から歓声があがった。
「ウオオオーッ! "凶星"バンザーイ!」
「やった! やりました! さすがは私の輝星さんですっ!」
「聞き捨てならない発言が聞こえたんだが!?」
口々に喜びの声を叫ぶ皇国兵だったが、輝星は鋭い目つきで天を睨みつけた。
「油断するな、次が来る!」
輝星が警告したのとほぼ同時に、猛烈な射撃が"カリバーン・リヴァイブ"を襲う。輝星はこれをスラスターを全開にして回避。空を切った真紅のビームが"ヴァライザー"の装甲を叩く。
「殿下とリャカ少尉は砲兵陣地まで後退! 手練れが来た、俺がやる!」
「なっ……敵!? 封鎖が突破されたのですか」
「く、行きましょう! 殿下!」
困惑するシュレーアだったが、身体はほとんど反射的に操縦桿を操作していた。敵の増援が来たのなら、早く退かねば砲兵隊が危ない。リャカ少尉もそれに続く。
「ザコを逃がしましたか。いい判断デス」
「初めましてデスね、"凶星"サン。ワタシはノラ・アルケイド。帝国最高戦力、四天が一人━━」
青い帝国機のコックピットで、グレーのショートカット少女が嗜虐的な笑みを浮かべつつ言葉を続ける。
「二つ名は"
一騎打ちの口上のようにノラは朗々とした声でそう言い切り、
「さあ、お手並み拝見と行きマスよ!」
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