第六十七話 歩行要塞攻略(4)

「くそっ、懐に……ッ! 味方のストライカーは何をしているんだ!」


「砲撃に巻き込んじゃマズイからって護衛を退かせたのはアンタでしょうがッ!」


「ああもう、滅茶苦茶だッ! 早く援護に来い、貴様ら!」


 "ヴァライザー"のコックピットは完全に修羅場と化していたが、そんなことはお構いなしに輝星は対艦ガンランチャーをぶっ放した。自動迎撃システムが作動し、腹部に装備された無数の40mmガトリング砲が火を噴いた。しかしその火線を縫うようにして大型ミサイルは飛翔し、狙い通り腕部の速射砲へと命中。四連装の砲身を吹き飛ばした。


「この……好き勝手してッ!」


 操縦桿を握る手に力を込めつつ、砲手が吠える。その怒りを受けたように、残されたもう一基の光粒子速射砲ラピッドブラスターガンが発射された。連動して動いたガトリング砲とともにすさまじい火力が"カリバーン・リヴァイブ"を襲う。


「自動照準頼りではなァ!」


 輝星はスラスターを吹かし、"ヴァライザー"の股下をくぐるようにしてこれを回避する。


「そう来ると思ったよッ!」


 だが機長はこの動きを予測していたようで、ちょっとした巡洋艦ほどもある大きさの脚部ユニットが見た目に反した軽やかな動きで"カリヴァーン・リヴァイブ"に迫る。キックといっていい技だが、大きさが大きさだけにほとんど艦艇による体当たりに近い。

 当たり判定の大きさから極めて回避が難しいその一撃を、しかし輝星は軽やかな動きで紙一重の回避を見せた。さらにそれと同時に頭部機銃が発射され、装甲の隙間に小さな銃弾が殺到する。


「第二十番油圧ホース破断!? コイツ、この一瞬でッ!」


 サブモニターに表示された警告を見て機長が驚愕した。脚部ユニットを駆動する油圧系は他にも経路があるため作動不良こそ起こさないものの、パワーもスピードも低下は避けられない。


「機長、機体を回してください! こいつ対空砲の死角へ死角へ入り込んで……ああっ!?」


「そこだッ!」


 一瞬の隙を突かれ、残るもう一基の速射砲も対艦ガンランチャーによって破壊される。コックピットに嫌な振動が走った。


「馬鹿、こんな時はミサイルだ! 何のために高い高機動ミサイルを山のように搭載していると思ってるんだ!」


「も、申し訳ありません!」


 慌てて砲手がミサイルの発射ボタンを押すと、機体底部のミサイルハッチが解放された。しかしその内部から弾体が発射されるより早く、いくつもの緑のビームが針を通すような精度で飛んでくる。いつの間にか武器をブラスターライフルへと持ち替えていた輝星の攻撃だ。


「なにぃ!?」


 ミサイルの発射口が火を噴いた。弾薬庫が誘爆したのだ。小威力の対ストライカーミサイルのため"ヴァライザー"自体に大きなダメージが入ることはなかったが、ミサイルランチャーの多くが使用不能になってしまった。


「なんてヤツだ! だが……」


 それでも、生き残ったランチャーからは次々とミサイルが飛び出す。その数数十、かなりの数だ。それらは束になって"カリバーン・リヴァイブ"へと向かう。


「おっと!」


 白煙を上げて殺到するミサイルを、輝星はひらりひらりと軽業のような動きで回避していく。命中しそうなミサイルもあったが、着弾する前に新装備の対ミサイルレーザータレットがすべて撃ち落としてしまった。


「機付長も良い仕事をする……!」


「な、なんてことを」


 主要な対空火器をいくつも失い、砲手は茫然とした様子で呟いた。自動型のガトリング砲もけなげな抵抗を続けているが、ブラスターによる反撃で次々と撃破されていく。


「え、ええい! いっそ無視しろ! 主砲は装甲化されているし、ストライカーの武装で本機のバイタルパートを抜くのも無理だ! 致命的なダメージは受けない!」


 すでに護衛の帝国ストライカー部隊も付近に戻り、皇国軍機との交戦が始まっている。ストライカーの相手はストライカーにさせるべきだと機長は考え直した。


「それより敵砲兵隊の排除はできんのか! 目下一番の脅威はアレだ!」


 斥力偏向シールドと強固な装甲をもつ"ヴァライザー"からすれば豆鉄砲でしかない機動砲だが、いまだに射撃は続き小惑星の地表付近で戦っている護衛部隊が一方的なアウトレンジ攻撃を受けていた。ゼニスである"ミストルティン"が大暴れしていることもあって、とてもではないが護衛部隊は"ヴァライザー"の援護に回る余裕がない。


「駄目です、機動砲の護衛にゼニスが居て……まともに接近できません!」


 皇国砲兵隊へ攻撃を仕掛けていた部隊の隊長からの通信に、機長は思わず歯を噛み締める。


「帝国艦隊からの増援は!? 本隊の戦力ならばこの程度のコバエ、すぐに摺りつぶせるハズだ!」


「接続宙域を皇国の部隊が封鎖しています! さらに付近に皇国の本隊もいるらしく……」


 FTL超光速アウト直後を狙って総攻撃を仕掛ければ、多少の戦力差があってもひっくり返すことが可能だ。まともな感覚を持っている指揮官であれば、封鎖されている星系に無防備に部隊を投入したいとは思わない。

 まして、この星系は"ヴァライザー"がいるとはいえ帝国側の防衛設備はない。ヴァレンティナとしても決戦の地としてここを選んだりはしないだろう。皇国の主力が近くにいるなら、無理な攻撃は行わないハズだ。


「くそっ、どうすれば……」


 そして、機長がそうして迷っているスキに輝星が動いた。さっと機体の踵を返し、斥力偏向シールドの展開距離のギリギリへ。


「いまだ、殿下!」


 叫ぶなり、輝星はワイヤーガンを発射する。その狙いの先に居たのは、"ミストルティン"だった。


「やっと出番ですか!」


 獰猛な笑みを浮かべながらシュレーアが答える。"ミストルティン"がワイヤーガンの先端を躊躇なくつかむと同時に、"カリバーン・リヴァイブ"がパイルバンカーを地面に刺しつつワイヤーの巻き取りを開始した。

 斥力偏向シールドが異物を排除しようと作動するが、カーボンナノチューブで編まれたワイヤーが命綱となって"ミストルティン"がはじき出されることを防いだ。こうして二機目のストライカーが"ヴァライザー"の懐へ侵入した。


「わわわっ! こっちも早くしてください!」


 残されたリャカから通信が飛んでくる。一般量産機でしかない"クレイモア"では、多数相手に持ちこたえるのは難しい。周辺に展開した護衛機から飛んでくる集中攻撃をなんとか回避している状況だ。


「今やる!」


 再びワイヤーガンが発射され、同じように"クレイモア"が斥力偏向シールドの傘の中へと入ってくる。こうなれば逆に"ヴァライザー"の防御装置がこちらを守ってくれるようになった。


「ま、まずいですよ機長! いったんシールドを解除して護衛機に追い払ってもらいましょう!」


「うっ……」


 一瞬迷った機長だったが、相変わらず降り続く皇国砲兵隊の射撃を見て決断した。



「いや、まずはあっちを狙う! ストライカーの豆鉄砲と違って、機動砲は"ヴァライザー"にもダメージが入るかもしれない」


 本来、"ヴァライザー"の装甲があれば斥力偏向シールドがなくとも機動砲程度の攻撃は耐えられる。しかし輝星によっていいように翻弄されてしまった機長はもう彼を相手にしたくない気分になってしまっていた。故に、もっともらしい理由をつけて輝星との対峙を避けてしまう。しかし、それは大きな判断ミスだった。

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