第四十六話 白兎の強化

「まずはあれをご覧ください。"カリバーン・リヴァイブ"の肩に小型バインダーが追加されているでしょう?」


 言われてみれば、確かに"カリバーン・リヴァイブ"の左右の肩には見慣れない小さな盾のような装置がついていた。背部から伸びる細いアームによって保持されており、かなりの可動範囲がありそうに見える。


「シールド……にしてはやけに小ぢんまりとしてるな。なんだアレ」


 サキが興味津々といった表情で聞く。彼女にはストライカー・オタクのケがあった。他人の機体とは言え新装備には興味津々だ。


「対ミサイルレーザータレットです」


 それに対し、機付長はふふんと自慢げに豊満な胸を張りつつ答えた。


「あの装置の表面には無数の低出力レーザーの発振体が埋め込まれています。レーダーがミサイルの接近を感知すると自動で迎撃を開始、これを撃墜するという仕組みですね」


「なるほど、グラディウス改の時の戦闘を参考にしたのか」


 ヴァレンティナと初めて遭遇した一件だ。彼女の操る"オルトクラッツァー"が発射したマイクロミサイルにより、"グラディウス改"は大きな損傷を負った。まっすぐ飛ぶブラスターやマシンガンなどは回避しやすいが、自動で追尾してくるミサイルはかなり対処が難しい。


「ご存じの通り、対ストライカーを主目的としたミサイルはあまり使用者がいません。コストが高く、その上貴族の使う武器としては見栄えが悪い。というワケで、普通のストライカーのミサイル対策はわりとおざなりなんですよね」


「好んで使ってるうちの姫さまくらいだよなあ」


 すぐ近くに固定されてあるシュレーアの愛機、"ミストルティン"をちらりと見ながらサキがぼやく。騎士だなんだとよく口にしているわりには、ガチガチの砲戦型の機体だ。貴族の機体は、おおむね華々しい近接戦に向いたセッティングをされていることが多いのだが……。


「あの機体はあの機体なりのコンセプトがあるんですけどね。多数の敵を相手にせざるを得ない小国ゆえの苦肉の策というか……」


 苦笑しつつ、機付長はシュレーアの弁護をした。単なる整備員ではなく皇国技術部の一員でもある彼女は、"ミストルティン"の発注や改装にも一枚かんでいる。


「それはさておき、です。ミサイルが不人気なのは、あくまで普通にストライカーで戦う分にはブラスター等で十分だからというのが大きい。しかし、輝星さんの場合にはこれらの兵器はあまり有効には機能しません」


「避けるも弾くも大して難しくないからね」


「いやクソ難しいんだが?」


 なんでもない事のように言う輝星に、サキは『これだから規格外は』と言わんばかりの声音で言い返す。


「まあ、でも、そういう事ですよ。私が帝国軍の指揮官なら、ミサイルを大量に装備させた機体を並べてつるべ打ちにします。輝星さんに関しては、コストや見栄を気にして墜とせる相手ではないわけで」


「実際にやられた経験も何度もある。マジでだいぶキツいよアレ……」


「そんなこと言いつつ無事じゃねーかお前」


「そりゃあ俺、北斗輝星ですから。"凶星"の名は伊達じゃない」


 自信満々の様子で笑ってから、「でも」と輝星は続けた。


「こういう装備があると、確かにだいぶ楽ですね。信頼性はどの程度で?」


「もちろん十分に確保してありますよ。ベースは輸送艦なんかに装備されてる小型デブリの撃墜用装備です。実戦証明バトルプルーフ済みというワケです」


 待ってましたと言わんばかりの態度で返答する機付長。


「レーザーみたいな熱だけでダメージを与える兵器は回生装甲に弱いのが難点ですが、ミサイルにそんなものはついてません。特にマイクロミサイルの類には効果抜群ですよ」


 熱は電力への変換効率が高いため、回生装甲を装備した兵器にはまったく有効ではない。単なる荷電粒子砲に見えるブラスターも、正体は加速すればするほど質量を増す特性を持った特殊粒子による超高速徹甲弾であり、熱による破壊はあくまで副次効果だ。

 

「それは心強い」


「そうでしょうそうでしょう。ですが、改造はこれだけじゃあありませんよ」


「マジかよ」


 輝星より早くサキが食いついた。どちらの機体を改装したのかわからなくなりそうなレベルだ。


「わかりやすいところで言えば、ブラスターライフルに銃剣がつきました。結構、ライフルを持ったまま近接戦に入る機会が多かったので」


「ほう」


 彼女の言葉の通り、壁にかけられた"カリバーン・リヴァイブ"の砲身の下には大ぶりな片刃の剣がついていた。歩兵用の銃剣としてよく見るナイフ相当のものではなく、単体でも短めの剣として十分使える大きさだ。


「当然戦場での脱着も容易ですよ。フレキシブルに運用してください」


「ふむ。迎撃にもいいし、奇襲にも使えそうですね。有難く使わせてもらいます」


「いいじゃん。あたしの使うマシンガンにもつけてほしいな」


 キラキラとした目でサキがずいと前に出た。彼女の機体は近接戦特化タイプだ。射撃から即座に白兵に移ることが出来るのは大きなメリットだろう。


「ええ……ショートマシンガンにですか? むしろ取り回しが悪くなりそうだけど……。まあ、向こうの要員に相談してみますわ」


 若干あきれ顔の機付長だが、パイロットの意向を無碍にするわけにもいかない。"ダインスレイフ"の改修は完全に管轄外とはいえ、整備員同士の付き合いはある。まあ、話のついでに伝えるくらいはしてやろうかと頷いて見せた。


「"カリバーン・リヴァイブ"の話に戻りますが、外見上での変化はこれくらいですね。あとは内部的な変化ですが、大きなところでは慣性制御機構のキャパシターが……」


 どうやら、機付長の話はまだまだ続きそうである。ずいぶんと張り込んで改造してくれたなと、輝星は嬉しそうに笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る