第三十四話 ルボーア会戦(4)

「母上……いえ、陛下。遅れてしまい申し訳ありませんでした。第三艦隊、これより戦列に加わります」


「いや、そちらからの情報がなければ迎撃はままならなかった。謝る必要はない」


 シュレーアの謝罪の言葉に、通信先のアリーシャは厳粛な声で答えた。場所は"レイディアント"の艦橋ではなく"ミストルティン"のコックピットだ。一大決戦とあって、彼女も最初から現場に出ている。大局的な指揮はアリーシャが執っているというのも大きい。


「今はとにかく前線を再構築しなくてはならない。第三艦隊は後退する味方を支援してくれ」


「承知しました。お任せを」


 もとよりそのつもりで部隊を展開している。通信を切り、周囲の状態を確認する。準備不足もあり、味方は軒並み潰走状態だ。敵の侵攻をなんとか止める必要がある。


「殿下、アイツは大丈夫ですかね?」


 すぐ近くに居る"ダインスレイフ"から通信が飛んでくる。アイツとはつまり、輝星のことだ。彼はルボーア星系に到着した段階で一人飛び出して行ってしまった。一応止めはしたものの、輝星の強い主張と戦況の悪さから、シュレーアは仕方なく出撃を許可した。


「反応は健在です。近くに居ますよ、すぐ合流できます」


 惑星中に設置された通信設備のおかげでデータリンクはつながっている。輝星機の状態と位置もそれで確認可能だ。

 とはいえ、シュレーアとしても心配なのは確かだ。あの男は平気で敵陣の真っただ中に単機で突っ込んでいく。それでも戦えるだけの技量はあるとはいえ、傍から見ている方からすれば危なくて仕方がない。地面を蹴り、シュレーアは輝星との合流を急いだ。


「━━居たっ!」


 それから十分後。シュレーアたちは"ジェッタ"の部隊と交戦中の"カリバーン・リヴァイブ"を発見した。一対多数にも関わらず、輝星はジャンプや加速を繰り返しながら敵機を追い立てている。


「輝星さん、加勢します!」


 敵機に照準を合わせ、肩部ブラスターカノンを放つシュレーア。その太いビームは狙いたがわず"ジェッタ"の下半身を吹き飛ばす。残った上半身が地面を転がり、白い粉塵が舞った。


「待ってましたよ! いやーさすがに数が多い!」


 輝星は嬉しそうに応えた。他の味方は大半が後退中でこちらに支援を回す余裕はない。たとえ二機の増援でも、有難いことこの上なかった。


「一人で突っ込むからだよ、馬鹿!」


「言えてる」


 サキの突っ込みに輝星はそう言って笑った。悪びれない態度にため息を吐くサキ。しかし、何はともあれ今は敵を止めなくてはならない。スラスターを全開にして"ダインスレイフ"が"ジェッタ"に肉薄する。


「新手……ゼニス三機は不味い!」


「遅いんだよッ!」


 退こうとする"ジェッタ"だったが電磁式居合刀が閃き、文字通りの一刀両断される。


「ちぃっ!」


 別の"ジェッタ"が迎撃すべくブラスターライフルを構えるが、間髪入れずに輝星の撃ったビームに腹を貫かれる。


「私たちだけじゃ話になんないわコレ! 貴族がたはこっち来てくれないの!?」


「呼んでるけどぜんぜん来ない! そっちだけで対処しろって!」


「普段偉ぶってるんだからこういう時くらい役に立ちなさいよぉぉぉぉ!」


 帝国側は阿鼻叫喚の様相だ。動きの鈍った敵機に、輝星は斜面を蹴ってジャンプしとびかかった。盾を構えて防御しようとするが、着地と同時に足裏のアンカーを作動させて急旋回しサイドからパイルバンカーを突き立てる。倒れた味方を気にせず数機の"ジェッタ"がショートマシンガンやブラスターを撃つが、輝星はこれもジャンプで巧みにかわした。


「そういや地球の月にはウサギが居るって話を聞いたことが、なるほどこういうことか」


 その姿を見て、サキが苦笑しながら言った。確かに、白い機体色と耳を思わせるアンテナのせいで"カリバーン・リヴァイブ"は兎に見えなくもない。


「もっとも、やってることは兎どころか虎みたいなもんだが」


「兎……? 食材としては聞いたことがありますが、あんな生き物だったとは」


 もっとも、地球に縁のないシュレーアは兎がどういう生物なのかは知らないようで微妙な反応だった

「ま、あたしも生でみたことはないですけど」


 そう言って肩をすくめるサキ。その冷たい口調にむうと唇を尖らせつつ、増援として現れた新たな"ジェッタ"の部隊に向かってヘビーマシンガンを撃ち込むシュレーア。

 命中こそしないものの、殺到する青い曳光弾に恐れをなして新手の部隊が足を一瞬止めた。狙いすましたように輝星がブラスターライフルを連射し、三機の"ジェッタ"が撃墜される。


「すごい手際だ」


 サブスラスターを吹かして岩場に後退し、ブラスターライフルのマガジンを交換する輝星をちらりと見てシュレーアが感嘆と悔しさの混ざった声で言った。彼女も射撃には自信があるが、さすがにこんな真似はできない。


「だめだ。これでは……守るどころか守られるだけではないか」


 小さくつぶやき、歯を食いしばりながら別の敵機に狙いを合わせるシュレーア。次々と敵は撃破しているものの、いまだ増援はやむ様子はない。まだ戦いは始まったばかりだ。


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