29:可愛らしいことをする

 どちらも中性的な美貌だが儚げな空気を纏い白髪に黒曜の虹彩をもつのが霧。明るく人懐っこい印象を与える黒髪に緋色の虹彩をもつのが澪。二人は一卵性の双生児で、霧はスーツを好み、澪はパーカー等の楽な服装を好む。


 宵闇の医務室を管轄している霧は白衣を纏い、暇を持て余していた。


「怪我人や病人が減るのは嬉しいことだけれど……」


 暇すぎて医務室内を片っ端から綺麗にした今、全ての窓を全開にして換気扇を回しキャスター付きの椅子を転がし窓辺で中庭を眺め溜息を漏らす。ユキトが仕入れた主にヘルシングからの依頼で使う魔界の動植物達は今日も元気だ。


「きぃり!」


  セレナの町へ買い出しに行っていた澪が買い物袋片手に大きな箱を小脇に抱えて中庭に降り立ちにっこりわらう。


「お帰りなさい、澪」

「ただいま、霧。あのね、服を貰っちゃった!」

「そうなの? よかったね。早速着せてみせて」

「うん、霧の分もあるから後で着てね」

「……考えておくよ」

 買った食材を先に収納するべく奥へ続く居住スペースへ向かう澪の背を見送った。



 窓の下の壁を蹴ってキャスターを転がし出入口の方まで滑るように移動する霧が元居た方へ戻り、何回か往復して遊んでいると挙動がおかしいキャスターが何かに躓き椅子が傾き霧が滑り落ち尻を打つ。


「…………」


 片手を床に着いて空いた片手で尻を撫でていると、ガチャッとドアが開いた。


「大丈夫? 霧」

「うん。……ネコ」


 澪が来ている黒パーカーのフードにはネコミミが付いており丈が眺めな裾には尻尾が一本ぶら下がっている。


「澪ネコ」

「にゃぁあお」


 猫の手をしてみせた澪は小さく小首を傾げ、上目気味に霧を見た。指先がちょこんと出る長さの袖の掌に当たる部分に薄桃色の肉球が描かれている。


「お手」

「にゃん」


 掌を差し出すと顎を乗せる澪。


「ごろごろ」


 頬を寄せる愛しいヒト。


「んにゃぁん……」


 ペロペロと唇を舐めてきた。


「発情期かな?」

「んなぁああおん。んなぁああああああおん」


 霧の胸に軽く頭を摺り寄せ、ガブッと首筋を齧られる。思っていたよりも鋭い痛みに全身が強張るも、小刻みにチロチロチロチロ動く舌先がジンジン痺れるカ所を懸命に愛撫するくすぐったさで力が抜けていく


「可愛くねだってもお預けだよ、澪」

「えぇえー……」


 此方が罪悪感を覚えそうなほどの残念そうな顔に今更チクリと胸を痛める霧ではない。


「僕の業務時間が終わるまで我慢して」

「ふぇ……。うん。仕方ないね。霧はお仕事中だもん」

「うん。……暇すぎて店仕舞いをしようかとも考えたけれど、こういう時って大概急患が来るから――」

「霧」


 ガラッと医務室のドアが開き、白銀の長髪を流した冷やかな美貌が印象的な緋色の虹彩をもつ夕霧が足早に入ってきた。


「今すぐアレンに行ってくれないか。千鶴達が合同訓練を行っているのだが、乱闘騒ぎで惨事が起きている。あちらの担当医が巻き添えの犠牲となった」

「承知しました。すぐに準備をします」


 霧は足早に予め必要な道具を収納していた鞄を取りに動く。


「澪は霧を至急アレンへ送り届けてくれ」

「了解」

「お待たせいたしました。澪、お願い」

「うん。鞄、持つね」

「ありがとう」


 背負った霧を片手で支え、もう片方の手で大きなカバンを手にした澪は中庭に出ると高く飛んで屋根伝いに城を越えアレンを目指す。



   終

 ――――――――――

 あとがき


 閲覧ありがとうございます。

 誤字脱字ごめんなさい。


 29日目のお題は『可愛いことをする』でした。霧からすればいつだって澪のすることは多少阿呆でも可愛いのです。


20200929

 柊木 あめ。

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