26:結婚する

 箱庭の楽園。其れは誰もが何不自由なくのびのびと暮らせる夢のような世界。貧富の差がなく誰もが平等に何かを評価され、誰かが誰かを虐げる事のない穏やかな世界。イフェリアに拠点を置く神の代行者監修の下で作られたネットゲームの世界だ。豊富なキャラメイク素材や自由度の高さ、グラフィックの美麗さがうりで多くのプレイヤーで賑わっている。


 ルカ・ラングータ・エト・ヘルシングもそのプレイヤーの一人で、シャルル・パンナコッタという名前の金の長髪を高い位置で一つに結った金と赤のオッドアイ美少女となり平凡な生活を営んでいた。


 シャルル:『あー、緊張する!』


 今日は村はずれにある白と金の荘厳な教会に訪れ人を待っている。


 ドルチェ:『ごめん、待たせた?』


 やって来た美男はドルチェ・ダイスキ。長身の美男で薄青のウルフヘアに月のような銀の虹彩をもった恋人だ。


 シャルル:『ううん。今来たところだよ』

 ドルチェ:『そっか。……なんだか緊張するね』


 二人は司祭の前に移動し、挙式を上げるを選択した。キャラの性別にあった特別衣装を入手できるのだが、つい最近要望が多発したらしく性別の縛りを無くし好きな方を選べる仕様になったのは別の話で、二人はキャラに沿った衣装を選択肢て着替える。一旦画面がブラックアウトした。澄んだ金の音が響き渡り挙式開始のムービーが流れる。再び教会内が映し出された時、暇を持て余したプレイヤー達が複数赤い絨毯を挟むように参拝席に集まり各々アクションを起こして祝福していた。


 ネコマタ:『おめでとう』

 アアアア:『おめでとう、二人共』

 ナトリウム:『おめでとう』


 同じ集落に属する者達が次々にコメントをして勢いよく流れていく。


 村人:『大変だ!異形が村を襲撃してきた!助けてくれ!』


 ボロボロの服を纏った農民が一人やって来た。


 ナトリウム:『空気を読まない襲撃イベ』

 ドルチェ:『いつ異形が襲ってきてもルルは俺が護るよ』

 シャルル:『キャァ―Vvドルチェさん素敵Vv』

 ナトリウム:『爆ぜろ!』

 ナトリウム:魔獣ウンコロパッコロを召喚>>教会内につき無効

 ネコマタ:『レア異形死神出現だって』

 村人:『助けてくれ!異形が襲ってきた!』

 アアアア:『こっちは定時の襲撃イベントだな』

 ネコマタ:『何にせよ空気を読まない襲撃イベント』

 アアアア:『先に行く』

 ネコマタ:『じゃあ僕も行くね。また後で』

 ナトリウム:『魔獣召喚祭りじゃぁぁあああああ!!』


 次々に人が居なくなっていく。ふと、ドルチェから個人チャットを受け取った。


 ドルチェ:『今夜、時間ある?』

 シャルル:『うん』

 ドルチェ:『二人でゆっくりしたい』

 シャルル:『奇遇ね、あたしもそう思ってた』

 ドルチェ:『星降る丘に十時で』

 シャルル:『りょ!』



    ※    ※    ※



 無事に襲撃イベントを終えたルカは一旦ゲームを中断し、にんまり笑う。


「随分と嬉しそうだな」


 声の方を振り返ると壁に背を預けて男が立っていた。黒みがかった蒼の長髪を低い位置でゆったり結った冷やかで鋭利な美貌をもつレインは溜息を漏らす。


「ヘルシングともあろう者がゲームに現を抜かすとはな」

「だって楽しいんだもん。レインもやってみればいいじゃん。人間生活疑似体験できるよ」

「ゲームをする為だけに態々此処に来いと?」

「魔界にこっちのネット環境持って行けたらいいのに……」

「くだらん」

「あれ? 帰っちゃうの?」

「お前の阿保面をみたら興が失せた」

「……もしかして嫉妬? ヤキモチ?」

「寝言は寝て言え」


 弾けるように無数の蝙蝠に姿を替えたレインは開けっ放しの窓から出て行く。


「……まったく素直じゃないんだから」


 ルカは小さく笑って口を緩める。



    終

 ――――――――――

 あとがき


 閲覧ありがとうございます。

 誤字脱字ごめんなさい。


 26日目のお題が『結婚する』だったんですよ……。そんな予定のあるキャラが居ないもんで頭を抱えました。ドルチェはヴェルダン在住です。


20200926

 柊木 あめ。

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