24:仲直り

 気付けば麻生と警察が視界に映る。冷静になって眺めるリビングは電気が煌々と照らしており、場を染めるくすんだ命の色を浮かび上がらせた。


「っ――」


 あの時に嗅いだねっとりした生臭さを思い出し、立ち止まり口を押える。


「大丈夫か? 真冬」

「コンビニ寄って休もう」


 共に帰宅している友人達が背中をさすり、顔を覗き込む。


「大丈夫。……なぁ、今日泊まりに行ってもいい?」

「勿論だよ!」

「真冬が行くなら俺も行く!」

「じゃあ、アレ持って来いよ。此の前発売した――」


 ゲームやグラビア雑誌の話題で盛り上がる友人の声を微かに遠く感じながらも会話に加わり、一旦荷物を取りに交差点で別れた。友人達は家まで付き添うと言ってくれたが、逆方向だからと断ったのを後悔しながら青信号を渡る。ふと降り出した雪に気付き足を止めた刹那、クラクションが鳴り響き視線を向けると大きなトラックが眼前へと迫っ――。



 ドンッ! と鈍い衝撃音が空気に響く。高く身体が舞い上がる感覚は現実味がなく。


「……雪兎と仲直りしていないのになぁ……」


 あの日以来、顔を合わせていない。ドサッと鈍い音を立てて地面に叩きつけられ一拍遅れて背骨を中心に痛みが全身を駆け巡る。激しく脈打つ心臓。ぐったりと重たい身体。聴覚に届く周囲のざわめき。近付く複数の気配。ぼんやりと薄れていく意識の中で、白い影を見た。


「……雪兎……」


 不思議と心が安堵で満たされる。冷えたぬくもりが真冬の上半身を抱き起す。


「ごめん、雪兎。俺――」


 重なる唇。触れ合うカ所から溶け合う温度は低い。


「愛しているよ、真冬」


 再度重なる接吻は、深く、優しいものだった。


 真冬は果てしない安らぎ中に沈んで逝く。



    終

 ――――――――――

 あとがき


 閲覧ありがとうございます。

 誤字脱字ごめんなさい。


 24日目のお題は『仲直り』でした。今期の真冬は高校生半ばくらいで、母親の再婚の末におきた家庭内暴力の餌食になっていましたそれでも親に愛されようと耐える純粋さ。


20200924

 柊木 あめ。

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