22:肩を並べて戦う
ある日のギルダ大陸はイフェリア。此の日、東のヴェルダン大帝国から異形軍による奇襲を受け、暖色系の煉瓦造りで赤い屋根が並ぶ都市は混乱に満たされた。
「まさか観光客に紛れるなんて……」
第五王子のユゥリ――黒のショートヘアに黄緑の虹彩をもつ自他共に認める美少年――は黒のジュストコールの裾を翻し回転の勢いを利用して眼前の歪んだヒト型をした異形を黒い刀身を持った剣で両断する。赤紫の体液が飛沫をあげジュブジュブと断面に気泡が立ち異形は溶けて逝く。
「油断の賜物だねぇ」
イフェリアが誇る魔物討伐軍ヘルシングを率いるヘルシング卿こと、ルカ・ラングータ・エト・ヘルシングは赤を基調とした隊服の裾を揺らして踊るようにステップを踏みながら鈍色に輝く刀身を持つ剣で次々に異形を切り裂いた。
「ははっ! 俺が見回り担当でよかったねぇ、ユゥリ!」
ユゥリの背後に迫っていた異形の首がゴロリと落ち、続けざまに身体が膝から崩れてドサッと小さな音を鳴らす。ルカが頭部を踏みつけるとグニュッと弾力のある肉が崩れ、ジュブジュブと溶けるように消えて逝く。
「ルカが居たところで状況は変わらないけどな!」
二人は多くの異形達に囲まれていた。互いに背を預け一息吐いていると歪んだヒト型異形が一斉にクネクネと蠢き出し、次々に近隣の同種を喰らいはじめ最終的には山ほどの背丈もある一つの異形と化し二人に襲い掛かる。面倒なことに何度も何度も腕を切り落とそうとも次から次へと新しい腕が生え、頭の先から真っ二つに両断しようとも瞬時に損傷部が再生されては変形し徐々にヒト型とは遠くなっていく。
「ヴェルダンの異形の材料、人間だって話だよ」
「今言うか!?」
「あはっ。化け物相手でユゥリが怖がってそうだったから!」
「余計にやりにくいっての!」
攻撃をよけながら声を張り上げる。
「ひぇ……斬ってもっても斬ってもきりないねぇ!」
「一体ずつ斬ってた方が気持ちが楽だった!」
「おや。予想以上にお二人はまだまだ元気そうですね」
不意に聞こえた穏やかな男の声音。上空から植物の葉を模した金糸で縁取られた純白のカソックの上に裾の長いケープを羽織った美しい顔立ちの男が金の長髪を靡かせながら落ちてくる。異形の頭部を足場に衝撃を緩和しながら軽やかに着地した。
「クラウディオさん!」
「クラウディオ大司祭!」
名を呼ぶ二人を優しげな紫の虹彩で微笑みかけた次の瞬間、鋭く異形を睨みつけて何処からともなく取り出した小瓶の蓋を器用に親指で弾き飛ばして液体を振りかけ、言葉を紡ぐ。其れは遥か昔に失われた言語であり、意味を知る者は数少ない。ボッと小さな音と立てて異形は淡い黒炎に包まれた。キィキィと甲高い音を奏でながら踊り狂う異形の表面はプツプツと気泡が立ち薄桃色の肉がまだらに顔を覗かせている。黒煙と共に周囲に充満する死肉が焼けるニオイ。最期の抵抗と言わんばかりにクラウディオを掴もうと巨大な腕が伸ばされた。ユゥリが其の腕を切断し、高く飛んだルカが異形を頭の先から股座にかけて切り裂くと霧状に赤紫の体液が飛沫をちらし、二度と再生することなく燃え続ける。
「貴方達が大多数を引き留めてくれたおかげで被害は最小限に済みました。ありがとうございます」
穏やかな声音で言葉を紡ぎながら浮かぶ微笑。二人は顔を見合わせはにかんだ。
「では失礼」
パチンとクラウディオが指を鳴らすと消える姿。数秒の間を挿み純白のローブを纏い深くフードをかぶり目元を完全に隠した男が数人駆けつけた。
「クラウディオ大司祭様が此方へ来たと思うのですがっ!?」
其の中の一人がルカに掴みかかる勢いで尋ねる。
「たった今、何処かへ行ったところです」
ユゥリが目を丸くしながら返答すると男達が騒めき出す。
「また逃げられた!」
「だから目を離すなと!」
「クラウディオ様ぁああ! 何処へ参られたぁあああああああああああああっ!?」
探せ探せ! と声を荒げながら散って行く背を見送った。
終
――――――――――
あとがき
閲覧ありがとうございます。
誤字脱字ごめんなさい。
21日目のお題は『肩を並べて戦う』でした。戦闘系ってRPGで触れはするけれどいざ文章で書くとなんか……。脳内に流れる映像はかっこいいのに、なんか、なんだろう。動きのある文章って難しいですね。
20200922
柊木 あめ。
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