20:一緒に踊る

 一目だけでも踊る夕霧の姿を見たいユキトはアレン城の中庭に居る。見上げた先のテラスから煌々と会場の灯りが漏れ、テンポが速めな華やかな円舞曲が聞えてきた。


「ユキト」


 声の方を見るとテラスから男が飛び下りた瞬間が視界に映る。クルッと見事な一回転を決めて軽やかに着地したのは白銀の長髪を流し長めの前髪を片側だけオールバックにした緋色の虹彩をもつ冷やかな美貌を誇る夕霧。タキシードを纏っているせいでいつもよりも数倍も堅苦しい空気を纏い気品を滲ませている。ふと、久世がヴェルダンの上流階級貴族に値する地位をもつ家柄であることを思い出し感心の溜息を漏らした。


「抜け出シてイインデスカ?」

「ああ。今は弟達が役目を果たしている。ユキトは仕事か」

「イィエ、夕霧サンを見に来たンデスヨ」

「そうか。なら、一曲付き合ってくれないか」

「ハイ」


 次の曲が始まるまで二人は他愛のない会話をして間を繋ぎ、タイミングを見計らってお辞儀をし、手に手を重ね相手の背に空いた片手を添え、滑るように片足が動き出す。最初はゆったりしていたテンポが徐々に速くなっていきステップを踏む足の動きも忙しなくなり、ユキトが片足の爪先を軸に回るとローブの裾が翻り黒い花が開花する。


 時間にすればたったの三分程度だが、不思議と其の何倍も長く感じていた。終わりに向けて最初と同じゆったりしたテンポへ移ろう曲が静寂を告げた時、二人の動きはピタッと止まる。ユキトの両目は長い前髪と深くかぶったローブで完全に隠れている筈なのに、緋色は終始ユキトの目を覗き込んでいた。姿勢を正す二人は再度優雅にお辞儀をし、言葉を交わすことなく其々の場所へ戻る。


   終

 ――――――――――

 あとがき


 閲覧ありがとうございます。

 誤字脱字ごめんなさい。


 20日目のお題は『一緒に踊る』です。ユキトも踊れるけれど夕霧さんのリードがあるから何とか踊れる感じで、ユキトは儀式的な奇怪な踊りの方が得意です。夕霧さんと澪は剣舞の方が得意で、霧は研究や実験に没頭することが得意です。アリエッタとカイトも人前に出られる程度に踊れます。千鶴さんはブレイクダンスとかの方が性に合っている。神崎さんは踊るのが苦手で、槌原さんは日本舞踊やバレエ方面なら適応できます。オルフェウスは楽団員としての参加を希望します。踊れない。 


20200920

 柊木 あめ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る