17:寝起き/朝の支度

 カーテンの隙間から射す日差しが眩しくて目を覚ましたオルハ――灰色のパジャマ姿――は其の儘の状態で大きく背伸びをする。ベッドからおりて向かうは隣接する洗面所。鏡に目を向けることなく所定の位置に置かれた紙ゴムで灰色の髪を一つに纏め、洗面台のコックを捻り水を出す。反射的に手を洗ってから掬う流水は冷えており指先から熱を奪い、顔面に触れた瞬間完全に眠気を吹き飛ばした。数回ほど顔を口の中を濯ぎポタポタと滴を垂らした状態で歯ブラシに手を伸ばす。


「オルハ」


 不意に声を掛けられビクッと肩が跳ねる。肩越しに振り替えると灰色みが微かに強めな白銀の長髪を流した紅色の虹彩をもつ冷やかな美貌の男――深紅のワイシャツに黒のベストと同色のズボン姿――が立っていた。溜息を漏らしながら近くの収納棚の引き出しからタオルを手に取り近付いてきたY‐0100がオルハの顔を拭く。


「顔を洗ったらちゃんと拭くように言っているだろ?」

「まさか夕霧に言っていた台詞を自分が言われようとは……」

「最近たるみすぎだ」

「ああ、そうかもしれん」


 歯ブラシにつけた歯磨き粉のミントが爽快感を生みだし香りが鼻孔へ通る。ゆっくり丁寧に歯を磨くオルハ。クチュクチュと口の中を数回濯いで満足そうに溜息を漏らす。Y‐0100は消毒液で自身の手を清めるとテキパキとオルハの顔に化粧水をしみこませたコットンで水分を補給させ保湿用の乳液を適量塗った。それから蜂蜜を使用したリップを小指の腹を使い唇に塗っていく。


「今日はいつもより乾燥している。昨晩保湿を怠っただろ」

「少しくらい問題ない」

「問題ある。お前は腐っても皇帝なのだから――」

「朝っぱらから小言はやめてくれ。気分が下がる」

「なら言われないよう行動をしてくれ」

「よく言う。好きで手を焼いているくせに」


 何も言い返さずにY‐0100はブラシでオルハの灰色を溶かし始めた。其の口元には小さな笑みが浮かんでいる。


「ガルバディアがアレンの領土に進軍しようとしているらしい」

「そうか。向こうには夕霧が居るから問題ないだろう。アレンには報せてやったのか?」

「早朝にM‐10790が噂を流しにアレンへ向かった」

「もし民間から兵士を集うような事があれば、私も行ってこようかな」

「立場を忘れるな」

「此処は平和すぎる。気もたるむさ」


 大きく背伸びをして欠伸を漏らす。


「偶には実践も悪くない」

「お前に何かあったら――」

「私を誰だと思っている? 軍神と謳われた先代の皇帝に剣術だけは優れていると褒められのだぞ」


 其れに――。と言葉が続く。


「偶には夕霧達に恩を売ってやろう」

「……会いたいだけだろ」

「ははっ……」


 笑いながら退場するオルハ。残されたY‐0100は小さく溜息を漏らす。



   終


 ――――――――――

 あとがき


 閲覧ありがとうございます。

 誤字脱字ごめんなさい。


 17日目のお題は『寝起き/朝の支度』でした。前にもオルハとY‐0100のやりとりを書いたような気がします。


 此の手のネタ、観察日記的な感覚で数人分覗いてみたい。


20200917

 柊木 あめ。

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