11:着ぐるみを着て
帽子屋の〝屋〟はとてもシャイで臆病な性質をした青年だ。故に光学迷彩スキルを手に入れ自身の身体を周囲に溶け込ませる事に成功した。然し行動を共にするシルクハットの形をした〝帽子〟は其れが非常に気にくわず、不満を膨らませている。
そんな〝帽子〟がいつものように〝屋〟の頭に鎮座してろすときんぐだむの噴水広場でソフトクリームを食べていると、何処からともなく風に乗り一枚のチラシが飛んできた。
「ぶおぉっ!? なんじゃワレぇえええええええええ!?」
「ひぃっ!? どっ、どぉし……」
相も変わらず語尾が消え行く〝屋〟はモゴモゴと言葉を続けてからバサバサと〝帽子〟の顔面に張り付きはためく一枚のチラシに気付き手に取り眺める。
「……アルバイト?」
「なんじゃい、ワシにも見せろ! てやんでぇえ!」
〝屋〟は頭部から〝帽子〟をとって膝に乗せ、チラシを見せた。
「おお! お前にピッタリのアルバイトじゃねぇかてやんでぇ!」
「ひぃっ! いっ、嫌だょそん……――」
「年寄りにはもっと大きな声で話せって言ってるだろぉが! てやんでぇちくしょーめ!」
「ひぃいいっ! 直接脳内で怒鳴るのやめぇ……――」
なんやかんやあって〝屋〟はろすときんぐだむ遊園地でアルバイトをする事が決定し、翌日から出勤することに。
「……(……ぅぅ……。恥ずかしぃよぉ……)」
〝屋〟に与えられたのは前後左右に顔があり、ヒト型の腕が首周りをぐるっと囲むように十二本の腕が生え、ヒト型の魅惑な生足が二十四本も生えたフランクフルトの幼生の内臓となり命を引き込む役割だ。姿見鏡の前で前後左右、不備の有無を確認しながら羞恥に顔を赤らめた。
「よぉおお似合ってんぞ!」
〝帽子〟はピョンピョン荷物置き場の上で跳ねている。
担当のスタッフに付き添われていざ園内へ。出た瞬間から遠くの方で、クルトちゃんだ! と小さい子の声がした。
「クルトちゃーん!」
タッタッタッタッと軽快な足音が近付いて来て、幼女のタックルが決まる。
「……!(ひぃいいっ――)」
「危ないからタックルしないでねー」
スタッフは幼女を引き剥がしながら言い、クルトちゃんを起き上がらせた。幸い沢山のヒト型の腕が生えている為に頭を強打することはなかったが体力の消耗が激しく、サウナスーツの如く熱が籠り呼吸もし難い。何より形状が形状なだけに身動きがとり難く、腕や脚の可動範囲が限られまるで拘束されているような感覚に思えてならず、ドキドキと心拍が上がっていく。
「わー、霧! なんか居る!」
「ろすときんぐだむ遊園地のマスコットキャラだね」
「フランクフルトのクルトちゃんです!」
スタッフが接客をし始めた。
「もしよかったらお写真撮りますよ」
「写真だって! 撮ろうよ、霧」
「うん」
スタッフの指示に従いクルトちゃんと双子は移動し、体感型ホラーアトラクション・久世屋敷の前でパシャリと一枚。クルトちゃんがポーズを変えてパシャリともう一枚。計五枚の写真を撮り適当な腕と握手をしてから双子は仲良く去って行く。
其れから多くの人達と接する内にクルトちゃんは自我の目覚めを達成し、よりフランクフルトの幼生らしく振舞う事が可能となり、業務が終わるころにはすっかり〝屋〟のシャイで臆病な性質は其の儘に一撮みの社交性を握り潰し、ゼェハァゼェハァ息を荒げながら椅子に座りぐったりしている。
「おうおうおうおう! てやんでぇ! よくやったぜぇ〝屋〟ぁ!」
「も、もぉやだぁ……人に会いたくないぃ……!」
光学迷彩スキルで透明化するのも忘れて生まれた儘の姿を晒す〝屋〟の悲鳴は風の囁きにかき消された。
終
――――――――――
あとがき
閲覧ありがとうございます。
誤字脱字ごめんなさい。
11日目のお題は『着ぐるみを着て』です。アレってよくダイエットになるでしょ?って聞かれますけど、水分が出ていくだけなので脱水に近くなるし、水分補給の仕方によっては水太りしますのでダイエットするなら食事の量や質を改善するなり運動する方が手っ取り早いですね。個人的には代謝を上げる筋トレから始めた方が腹部の脂肪は減りやすかったです。
20200911
柊木 あめ。
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