06:衣装交換

 此処はとある巨大めーろの出口。


「おや」


 最初に声を漏らしたのは、ピンと張った長いウサギミミを生やしたスーツ姿の優男。純白の長髪は脹脛の半ばまで伸びており血の流れを映す虹彩は赤くタレ目気味。向かって右目尻にある泣き黒子が特徴的な白兎。


「あっ!」


 次いで声を漏らしたのは、其の昔に通りすがりのヘルシングとぶつかった際に彼が持っていたヤマブドウとよく似た魔界植物の汁が頭に降り注ぎ、斑に染まった藍色を落とす術なく金の髪を完全に染めた不孝体質なアリス。相も変わらず向かって左目を前髪で覆い隠し、強制されたエプロンドレスを纏っている。


「……アァ!」


 二人に気付き片手を上げて挨拶をするのは宵闇で支給される漆黒のローブを纏ったユキト。深くかぶったフードと長い前髪で目元は完全に覆い隠されているが唯一窺える口元に笑みが浮かぶ。


「……?」


 ユキトの隣で数行遅れて視線を向けたのは中性的な美貌が明るい黒髪に緋色の虹彩をもつ澪。白いワイシャツと黒のスラックスの上から赤系の裾が長い薄手の上着はおっている。


「わ、ウサミミ!」

「霧さん!」


 澪とアリスが同時に声を漏らして瞳を輝かせた。


「……じゃない……」

「あはは。霧は僕の双子の兄だよ。人違いは構わないけど、シュンとされるのはちょっと傷付くかなぁ……」

「ごめんなさい……」

「うん。僕は澪、だよ。君は?」

「僕は……アリス、です」

「可愛い名前だね」


 澪が笑うとアリスは安堵の溜息を漏らす。


「私は白兎と申します。タナトスが居るなら、何があっても心強いですね」

「ユキト、デス」

「ああ、すみません。最後に会った時がタナトスだったもので」

「ユキトと名乗るようになってカラも何回か会ってイルンデスケドネェ……」

「あっ! ねぇねぇ、電光掲示板がついたよ!」


 アリスが声を上げると三人が指先に視線を向ける。


「……衣装交換をしないとゴールの扉は開きません」


 白兎が掲示板に表示された文字を読み上げた。


「衣装交換?」

「他に指示は無いようデスネ」

「衣装交換ね。よし、ユキト。脱いで」

「イヤン、エッチ」


 わざとらしく恥じらうユキトはクネクネ動いている。


「僕、ユキトさんのソレ着てみたい!!」

「コレ、デスカ?」

「うん。黒くてかっこいい! 僕ソレ着たい!」

「ウゥーン……身に着けている者を人に着せるのは抵抗ありマスガ、そンな風に煌々シた目で見らレたら断りずらいデス……。でもこンな機会、滅多にナイでショウシ……」


 ユキトは数秒間考え、人肌脱ぎマショウ。と言ってローブを脱ぎ始めた。指先から首元まで隙間なくきっちり包帯が巻かれた線の細い胴体が露わになり、低い位置でベルトを締めた黒いズボンと膝丈の編み上げブーツが露になる。


「ユキトさん、大怪我してるじゃないですか!?」


 泣きそうな埴輪のような形相でアリスが言う。


「アハハ。……ハイ、ドウゾ。前開きのダブルファスナーになってルンデスヨ」

「わぁ、ありがとうございます!」

「アリス、此方へ。手伝いますよ」

「ありがとう、白兎」


 白兎がアリスを庇うように部屋の端へと連れて行く。


「ホラ、澪クン。早く脱いでクダサイ」

「ああ、うん。はい、まず上着。其れから、ワイシャツ」


 上着の袖から腕を抜き、第三ボタンまで外して頭を両腕を引き抜いて渡す。


「ズボンも……?」

「ちょっと面倒臭いデスネ」

「だよねぇ……ダメなら交換しよう」

「ハイ」

「ユキト、髪の毛長いんだね!」


 踝まである長い黒髪は三つ編みで一本に纏められていた。何処までも深い其の色は驚くほどに艶がなく、まるで――。


「澪さん。此方、アリスのエプロンドレスです」

「あ。ありがとうございます。……あのさ、絵面的に成人男性が女の子の服剥ぎ取って着て大丈夫? 軍警に捕まったりしない?」

「おや、アリスが可憐な少女に見えておいでで?」

「え? 違うの?」

「安心してください。可憐な少女とは程遠いですから……」

 何を思い出したのだろう、笑みを浮かべた白兎の顔色がみるみるうちに蒼褪めていく。



    ※    ※    ※



「ちょっとキツイな……。丈も短すぎて恥ずかしい……」


 完全に背中のファスナーが閉まることはないが、なんとかアリスのエプロンドレスを纏った澪はしなやかな筋肉に包まれたすらっとした足に自前のスリークォーターズを纏い其れを留めていたソックスガーターと太腿の半分を晒している。


「澪さん似合います! 色っぽい!」


 ユキトから借り受けた明らかにサイズ違いな漆黒のローブを纏ったアリスは興奮した埴輪のような形相で鼻息荒く頬を種に染めながら言う。


「恥ずかしいからあんまり見ないで……」

「ハハハ。折角だカラ写真撮りマショウ?」

「では私が撮りますよ」

「じゃあ、お願いシマス」


 衣装交換をした澪、ユキト、アリスが並んで立つ。白兎が自身の携帯端末を構えた。


「撮りますよ。さん、にぃ、いち――」


 パシャッとシャッター音が響く。 


   終

――――――――――

あとがき


 閲覧ありがとうございます。

 誤字脱字ごめんなさい。


 六日目のお題は『衣装交換』で、此れって文章で書くより絵で描いた方がよいのでは?と思ったので落書きをしましたが、あまりのクオリティーの低さに掲載するのを躊躇いましたが、今月末でサーバーのサービスが終了すると同時にネットの海から消えるだろうから掲載します。安定のうちの子可愛い(*´ω`*)


20200906

 柊木 あめ。


※該当する画像は現在消失中です。

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