47.古代の叡智(Ⅱ)
「う、うわぁぁぁあっ」
閃光が空間一帯にまで満ち満ちて、一行の視界を奪う。
咄嗟に目を庇ったとはいえあの光量を一気に受けたのだ。両の瞳が辺りをぼんやりと映し始め、焦点が定まるまでには少々時間がかかった。
捉え始めた景色は先程と比べても、何か大きな変化があったようには思えない。
「な、なにっ、クリスタルが急に光り出したよ!? 何かに反応したのかな?」
困惑したリネットが、答えを求め即座にアシュリーへと振り向いたが、
「そんな、有り得ません……。クリスタルシードのような古代魔法には、プリマ・マテリアと呼ばれる特別な原動力がなければ起動しないはずです!」
しかし同じく当惑の表情を浮かべながらも、確信を持った言葉で彼女は見解を述べた。
「プリマ・マテリア? なんだそれは」
魔道に精通している者であれば知識として知ってはいるが、今となっては魔法の衰退と共に人々の記憶から遠ざかってしまったものだった。ヴィンセントが難しい顔をするのも当然だろう。
アシュリーがなるべく簡潔に説明をしようと試みる中、変わらぬ光景で唯一起こった異変を真っ先に発見したのはリネットだった。
「ねぇ、見て! クリスタルの中に小さな光の点がいっぱい浮かんでるよ……?」
「これは、どういうことでしょう? 光の点がなにかを形どっているようにも見えますね」
各々がクリスタルシードを覗き込む。
蒼白の光を纏った透明な遺物の中に、蛍のような光玉が幾つも浮かんでいる。
それは見方によっては規則的に並び、確かに定型を示しているようだった。
「文字か……? 地図のようにも見えるな」
「……違う。これは……楽譜だわ!」
光玉の数が増えていき、段々と形作られてきたものを見て考察を口にしたヴィンセントだったが、それを遮ってアリアから声が上がる。
その口ぶりは今ここで思いついたというよりも、答えを思い出したかの様だった。
「楽譜? 分かるのか」
「うん、読める。ええっと……」
アリアは自身でも理解できない確信を持って答え、その意図を読み解く為、光玉もとい光の地図に目を沿わせる。
一行目から順に声に出して読み上げようと、始めた解読―――。
「待て! 読んではダメだ!!」
それは何者かの焦燥を含んだ、制止の声によって阻まれた。
アリアたちが入って来た入口とは反対側から、人影が現れ、一行の前に飛び出してきた。
「誰っ!?」
警戒と共に振り返ったアリアが、声の主と視線を交差させる。
明かりに照らし出されたその人物の姿は、全身を重量感のある鎧で覆われていた。
腰に帯びた長剣には、ティマイオス帝国の紋章が施されているのが見える。
「帝国兵か!?」
瞬時に敵兵だと判断したヴィンセントは、剣を構え臨戦態勢を取った。
ここに現れた兵士は、見たところ一人のようであるが油断は出来ない。
「お、お前っ、お前は……っ! 見つけたぞ!!」
場に降りた肌を刺すような緊張を破ったのは、意外にも帝国兵の方だった。
ヘルム越しにも動揺が伝わる程に声を震わせ、視線を対象に向けながら声を荒げる。
その目は、真っ直ぐにアリアを捕らえていた。
「いいか、全員俺の後ろに下がっていろ」
剣を抜き放ち、構えたヴィンセントがアリアたちを庇うように前に出る。
帝国兵と仲間たちの間に体を押し入れ、視線を切って距離を取るよう指示を出した。
ヴィンセントと対峙し、同じく帝国兵も剣を抜き放ち構えた。
「まさか、ここで会えるとはな……。彼女をこちらへ渡して貰おう!」
この兵士の言い分は、記憶のない身元不明の少女をまるで以前から知っているかのようだった。
「アリアのことか? 何故だ」
「……アリア、と呼ばれているのか? お前には関係ない、早く彼女を渡すんだ!」
様子を伺うヴィンセントの言葉を一蹴し、ただ帝国兵は「渡せ」と繰り返す。
目前に立ちはだかる男を前にしても、兵士の意識の対象はアリアから離れなかった。
右手に握られた剣の切っ先はヴィンセントに向けられ、暗に拒否するならば容赦などしないと語っている。その構え、その気迫、腕の立つ者に違いない。
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