44.遺跡の守護者(Ⅱ)
「シンニュウシャ ハッケン シンニュウシャ ハッケン」
圧倒的な質量を持った石塊は、矮小な侵入者を無機質な瞳で見下ろし、標的に狙いを定めた。
古代より、重要拠点の
魔法で極限まで高められた外装の硬度は刃を通さず、一度や二度の攻撃ではダメージを与えることすら出来ない。
巨大な体躯によって繰り出される拳は、容易に侵入者を叩き潰してしまうだろう。
遺跡を守護する巨兵。
一般的にもよく知られた魔道兵器、その名は。
「あれは……ゴーレムだっ!!」
「ゴーレムッ!?」
ヴィンセントの叫びに、焦燥を含んだエレンの声が重なった。
目前の扉が開かなければ、ここは行き止まり。
戦闘に十分な空間も確保できない中、対峙するのは巨大なゴーレム。
誰しもの脳内にあの巨腕が振るわれる未来が想像され、その結果に体が震える。
「シンニュウシャヲ タダチニハイジョセヨ ゴォォォオオオオオオッ!!!」
感情を持ち合わせていないはずのゴーレムは、怒号とも言える雄叫びを発しその巨躯を動かした。
一体、どれ長い間この場所を守り続けているのか。
その表面には所々裂傷が見受けられ、風化している箇所さえ存在しているというのに。
巨大な兵士は主から命じられた任務を忠実に守り、侵入者をこの遺跡から排除する為だけに動いていた。
敵と認識した者を前にして、ゴーレムが大人しく引き下がるわけがない。激しい戦闘になるかもしれない。
「防御システムが動いてる? やはり、遺跡に異変が起こっていたというのは本当だったのですね!」
アシュリーが後退し距離を取りつつ、防御魔法の準備を始めた。
対して彼女と入れ替わる様に前へ進み出たジーク。
「へへっ、冒険はこうでなくちゃな!」
仲間たちが焦り戸惑う中、彼は心底愉快そうにゴーレムを正眼に構え、骨を鳴らした。そして、臆することなく巨体を目がけて走り出す。
「リネット、アリアと一緒にアシュリーのシールド魔法の中に入ってろ!」
剣を抜き放ち、自身も前線に踏み出さんとするヴィンセントが振り返り、少女たちに指示を与える。
「わたしも戦えるわ!」
だがしかし、仲間の窮地を放って逃げられないと、アリアはとっさに剣を構えた。
「ダメだ! お前に何かあったら、ユーリとの約束を破ることになる」
「っ……」
否定と共に最もな理由を告げられ、アリアは口ごもってしまう。
「ほら、アリアはこっち!」
「あっ」
そのまま退くことも出来ずにいた彼女の手を、リネットは強く引いた。
「白き光 盾となりて 我らを守り給え……!」
その間にも、アシュリーが魔法の詠唱を始めて間もなく、彼女を中心にして半球型の光壁が展開された。
遺跡の入口に張られていた、物理的な衝撃から対象を守る魔法と同種の効果を発揮する光の盾だ。
「二人ともシールドの中へ、早く!」
アシュリーの呼びかけに応え、アリアを引き連れたリネットがシールドの中に身を隠す。
ヴィンセントは、少女たちが安全であることを見届けると、敵の前へ急いだ。
その背が、遠のいて行く。
自分も戦えるのに。守ってもらうだけなんて……。
アリアは、剣を握りしめながら高ぶった感情をぐっと堪えた。
「ジーク、エレン。俺がゴーレムを引き付ける、お前達は背後から攻めろ。
加勢したヴィンセントが剣をゴーレムへ向けた。
その切っ先は、度重なる攻撃による損傷で露出していた
命令を受けたジークとエレンが了と告げ、挟撃する様にゴーレムの背後へと回り込む。
左右に散った標的の動きを追いきれず、無作為に振り回されたゴーレムの腕がブンブンと空を切った。
こちらは敵よりも素早く動ける。勝機はある。
――――――!
数秒経って。
激突音が遺跡中に響き渡る。
それは防御シールドに身を隠す、アリアたちの耳にまで届く程の轟音だった。
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