41.潜入開始(Ⅱ)
それぞれが仕事に取りかかる中、アリアは一人、不安そうな顔をしていた。
「アリア、どうしたの? 暗くて怖い?」
「ここに来てから、何だか胸騒ぎがするの……」
仲間の変化を敏感に感じ取り声をかけたリネットに、アリアは形容しがたい想いを
「大丈夫だよ、お姉さんが側にいてあげるからね!」
当然、リネットにその不安を解消する答えなど持ち合わせてはいない。だがそんな細事など何のその!
彼女が胸を張って笑うと、暗闇の中でその場所だけが暖かく輝いているように感じた。
「ありがとう、リネットは優しいのね」
リネットは照れくさそうに鼻下を人差し指で擦りながら、「まぁね~」と応える。
いつの間にかそれに釣られるようにして、アリアにも笑顔が戻っていた。
そんな朗らかな光景からもう一転。
「嬢ちゃん、怖いなら俺がお手々繋いでやろうか?」
熊のような大きな手がスッとアリアの前に差し出される。
部隊の後ろの方で、小さくなっていた彼女を気にかけていたのはジークも同じだったのだが、
「……遠慮しておく」
残念ながら、彼の心遣いが受け入れられることはなかった。
「そんなぁ、強がるなよぅ」
「あはは、アリアにも振られてやんの!」
空中に寂しく取り残された手を微動させ、落胆した表情を見せるジークをリネットが小馬鹿にして笑う。
プリーシードの仲間たちがいつもの調子を取り戻したのと、アシュリーが魔法の解除を終えたのはほぼ同じタイミングだった。
「開きました」
「流石だわ、アシュリーちゃん!」
「よし、これから遺跡に潜入する。お前たち、分かっているな?」
扉の解放を確認したヴィンセントは、散らばった仲間たちへ集合をかける。次いで釘を刺す様に特定の人物に視線を向けた。
「おう!」「はぁい!」
名指しをされたわけではないが、元気よくジークとリネットが返事をしてみせた。
二人の陽気さが、逆に周囲を不安にさせるということに彼らは全く気付いていない。
その調子のまま、まずジークが指を一本立て、
「その一、静かにする」
「その二、遺跡の物には無暗やたらに触らない!」
続いて、リネットが二本目の指を掲げる。
「「その三、とにかく勝手な行動をしない!」」
そして、自信に満ち溢れた二人の声が見事に重なった。
この三つの事柄は、彼らが任務中に順守すべきお約束となっている。チームの和を乱さぬよう、常々、ヴィンセントから厳しく言われていることだ。
「上出来だ、行くぞ」
まるで大きな子供のような二人を横目に、ヴィンセントは呆れと諦めを伴った溜息を零しながら、この場を仕切り直して遺跡への潜入開始を告げた。
多少の不安が残るものの、彼らと一緒であればきっと大丈夫だろうとアリアはくすりと笑ってその後に続いたのだった。
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