40.潜入開始

 明かりも届かない深い森の中。

 獣道を掻き分け進んだ先、遂にレテ遺跡はプリーシード一行の前にその姿を現した。


 苔や蔦をその身に纏い、無骨な石壁を野に晒した姿は正に古代の産物といった様相。

 だが何処か立ち入るのははばかられる、そんな神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「ヴィンセント、ここがレテ遺跡の裏口よ」


 集団の先頭を行くエレンが到着を伝え、松明でレテ遺跡を指し示した。

 息を殺しての移動は相当に精神を削っていたらしく、安堵から小さく歓声が上がる。


「随分と分かりづらい所にあるんだな」


「そうなのよ、見つけるのに苦労したわ」


 想定よりも入り組んだ往路に率直な感想を述べたヴィンセントに対し、エレンは遠くを見やる様な仕草で凝り固まった肩を揉みほぐしながら応えた。

 優秀な彼女がそう語るのだから、この入り口が巧妙に隠されていた事は容易に想像がつく。


「帝国兵の野営地を覗いて来たが、皆ぐっすり眠ってやがるぜ」


 そこに藪の中からジークが姿を現わし、髪に付いた木の葉を払いながら不敵に笑った。

 夜行の中一人だけ進路を変え、帝国軍の偵察を行っていたのだ。

 危険な任務を自ら買って出る胆力。時には不遇な扱いをされてしまう彼だが、やはりプリーシードの一員として頼れる存在でもある。


「夜の見回りは一回だけよ、今のうちにやっちゃいましょ」


「アシュリー、扉を開けられるか?」


 エレンの言葉に頷いたヴィンセントが、後方に控えていたアシュリーに問う。

 小さな魔女が目を凝らす先には、一見何の変哲もない岩壁が存在していた。

 だがアシュリーからすれば、そこに侵入者から扉の存在を隠す結界が張られていることは一目瞭然だ。


 千年もの間ここにあり続けた遺跡は、かつて強大な魔法の力を誇った王国、セレスティアが残したものだ。魔法に関して言えば現代よりも遥かに発達していただろう。

 そのため閉ざされている場所が多く、調査も思うように進んでいない。

 未だに、ここが『セレスティア王族の墓所』であるということくらいしか分かっていないのだ。


「暗くてよく見えませんね……明かりをください」


「どうだ?」


 エレンから松明を受け取ったヴィンセントが扉を照らし出す。


「ふむ、これは簡易的な魔法ですね。」


 アシュリーはどれどれと少し考えた後、解除は可能だと判断を下した。

 それを聞いたヴィンセントは、彼女に「頼む」とだけ伝えて潜入するための準備を始める。

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