36.天国と地獄(Ⅱ)

「キアラ」


 そう覚悟を新たにした少女の名を、優しい声が呼ぶ。

 噂をすれば影が差すとは本当らしく、振り返ればそこにミカエラが立っていた。

 

「ミカエラ様!」


「ザントと話をして来た。明日の朝、村の者に案内をさせながら、遺跡の調査を進めることになった」


 会議の報告をキアラは深刻な面持ちで聞いていた。

 ザントの為人、現帝国の性質を考えてもクリスタルシードは渡せない。


「それでは……」


「クリスタルシードが見つかってからでは遅い。私達は夜が明ける前に、遺跡に侵入しよう」


 ミカエラは、眉をしかめていたキアラの心中を察し、彼女の不安を和らげるように同じ考えであるということを示す。

 そして、いつもの穏やかな表情から、彼は真剣な眼差しでキアラへと向き直り、「一緒に来てくれるか?」と遺跡への同行を求めた。


「ええ、分かりました」


 キアラの承諾を聞き届けたミカエラは、感謝の言葉を述べながら彼女の手を取った。

 三人は誰にも聞かれぬ様、密かに計画を練った。目指すは古代の叡智が眠るといわれる遺跡。


 ここへ来てから、不思議と胸が騒ぐ……。

 キアラは心臓を掴むように両手を握りしめた。


 往く道を示す光と、この先で必ず出会う。否、巡り合うと。 

 行かなくてはならない、そんな確信めいた使命感に駆られ、キアラは人知れぬ決意と共に二人の後を追った。

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