19.偶然の出会い(Ⅱ)

 ヴィンセントは、自分の知りうる限りの、実力ある戦士を思い浮かべる。

 しかしそこに「アリア」という名前はもちろん、同じ年ごろの女戦士の一人すら浮かびはしなかった。


「そうか、アリア。その剣術はどこで身に付けた?」


「え? どこで……? ええーっと、それはぁ……故郷?」


「どこだ?」


「あなたの知らないようなずっと遠い所から来たの」


 アリア本人も知らないことなのだ、答えはどうしても曖昧なものになる。

 あからさまにはぐらかそうとするようなその答えに、ヴィンセントは腕を組み、疑わし気に鼻を鳴らした。


「なぁ、何もそんなに問い詰めなくてもいいじゃねぇか」


 また空気が重くなりかけたところで、ジークがいたずら顔で友の脇腹をつつく。

 ヴィンセントは半歩だけ体をずらして身をかわし、ジークはバランスを崩してよろめいた。

 そのままくるりと振り返り、アリアを指さす。


「あ……さては嬢ちゃん、訳アリだなぁ?」


「え? いや……その」


「お前、大会が目的でこの街に来たのか?」


「いいえ。あれはー、たまたまそうなってしまっただけで……」


 ヴィンセントの追及は止まらない。

 アリアもほとほと困り果て、無理やりに話題を変えた。


「あ、あの! わたし、人を探しているんだけど、あなたたちはこの街の人?」


「ああ、そうだが」


 不意を打たれ、ヴィンセントが思わずアリアの質問に答える。

 アリアはここぞとばかりに、質問を重ねた。


「じゃあ、ユーリとエリアスと言う人を知らない?」


「ユーリとエリアス……?」


 ヴィンセントの反応は、アリアの予想していたものとは全く違っていた。

 苦虫をかみつぶしたような顔で眉根を寄せ、ジークへと視線を移す。

 逆にジークは面白いおもちゃを見つけた子供のように、笑いをこらえて肩をゆすった。


「なぁ、そいつらって、金髪であおい眼の美少年と、聖者みたいな顔をしたひょろ長い男だったりするか?」


「そう言われれば……そうだったかな」


 ユーリとエリアスの姿を思い出しながら、アリアはうなずく。

 金髪碧眼きんぱつへきがんの、美しい少年。

 少なくとも、ユーリの容姿は説明にぴったり当てはまる。

 エリアスが聖者のような顔だったか、ひょろ長い男だったかはさておき、何か悟ったような顔つきで、長身であったのは確かだった。


「どこで知り合った?」


「砂漠で迷っていたところを助けてもらったの」


「何、砂漠だと?」


 ヴィンセントが色めき立つ。

 ジークに「まぁまぁ」となだめられながら、「……またあいつら、勝手に城を抜け出しやがったな」と舌打ちをした。

 あいつらということは、彼の頭の中にもユーリとエリアスの姿が思い浮かんでいるということだ。

 話を変えるだけの質問のはずが、思いもよらない方向に転がり始め、アリアは目を丸くした。


「え? 二人を知っているの?」


 ジークとヴィンセントが顔を見合わせる。


「知っているも何も……ねぇ?」


「……まぁいい。二人に会いたいのならついて来い。会わせてやる」


 ジークの含み笑いにも答えず、後ろを向いたヴィンセントが歩き出す。

 振り返りもせずに進む姿勢のいい背中を、面白そうに笑うジークに連れられ、アリアは慌てて追いかけた。

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