第18話「Talk to me baby」

(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説・歌>



・新キャラ

南十郎:チョコ、関口、マキミキの幼馴染。マキミキの兄・直登とも。

川南高校2年生。

ケンカ強い。

バカで親しい人からは愛されキャラ。

男らしく、童貞。

ギターやっている。



●1

インチョー「アメリカ南部では、ある特定の十字路は、悪魔と秘密の取り引きをする場所だっていう言い伝えがあって──」

インチョー「──人は、飛び抜けた才能を得るために、夜更けの十字路で悪魔と出会い、自分の魂を悪魔に差し出す……」

 十字路で悪魔と契約しているイメージ。アメリカ南部、田舎の未舗装道路。


インチョー「伝説のブルーズマン、ロバート・ジョンソンの『十字路ブルーズ』は、その言い伝え通りの実体験を歌っていて」

インチョー「つまり、悪魔に魂を売った本人のブルーズだっていう」

 ロバートジョンソンの写真イメージ。

インチョー「いわゆるクロスロード伝説」

 夕陽。

インチョー「普通ならただのお話だけど」

インチョー「まれちゃんのギターには説得力あると思わない?」

 視線を落とすインチョー。

 インチョーを見ているマキミキ。


●2

マキミキ「……ロバート・ジョンソンは、悪魔と契約してギターテクニックを手に入れた代わりに」

マキミキ「すごく早死にしたって言われているけど」

 インチョーのほうを見たままのマキミキの顔。

マキミキ「まれちゃんもそうだっての?」

 とインチョーに食い下がるように乗り出して座席のパイプをつかむ。不安げ。

インチョー「……そうじゃなくてさ」

インチョー「私はね」

 インチョーの眼元。視線を遠くに泳がせたまま。

マキミキ「?」

 何を言おうとしているのかわからず、インチョーを不安げに見ている。

インチョー「ただ、友達のこと、ちゃんとわかりたいだけなの」


●3

インチョー「いったい」

インチョー「どんな悲しみを背負ったら」

 てのひらを広げて親指と薬指でそっとメガネを押し上げるインチョー。顔を隠すように。

インチョー「悪魔と契約してまで何かを手に入れたいと願うんだろうね……」

 はさみと散らばった髪の毛、リゾネーターギター。

 マキミキ、険しく、哀しげ。

 インチョー、物憂げな表情。

●4

 電車を降りて駅構内を歩いている二人。

マキミキ「……契約のこと」

 ぽつりと。

 マキミキを見るインチョー。

マキミキ「……あたしだって、まれちゃんが嘘ついているなんて思わないけど」

 うつむくマキミキ。

マキミキ「そんなこと、確かめられないし」

マキミキ「なんか怖くてふみこめない」

インチョー「そうだよね…」

 と穏やかにうなずく。

インチョー「でもさ」

 マキミキ、その言葉をきいてる。

インチョー「何があったかは知らなくてもいいけど」

インチョー「わかりたいよね」

 と、マキミキ、その声に顔を上げる。


●5

インチョー「もっとさ」

インチョー「まれちゃんのことわかりたいんだ」

 穏やかな決意で前を見ている。

インチョー「まれちゃんだけじゃないよ」

 と立ち止まって。

インチョー「私たちみんな、お互いまだまだよくわからないこといっぱいあるでしょ」

 とマキミキを見る。

マキミキ「……」

 ちょっと驚いているマキミキ。思っていたことは同じだった。

インチョー「だから、私はあなたの話も聞きたいんだ」

 と穏やかにマキミキを見つめてる。

マキミキ「あたしだってインチョーの話ききたいよ!」

 と、まさかそんな話になるとは思ってなかったが意外な驚きにうれしさを照れ隠しで。

インチョー「あなたのそういう素直なところ好きよ」

 とフッと微笑んで。

マキミキ「!?」

 と、インチョーのリアクションに軽くひるむ。


●6

マキミキ「…おねえさんぶっちゃって」

 と、うわてなインチョーにちょっとスネて視線をそらす。

インチョー「おねえさんだもの」

 とニヤリ。

 くはっ、と思わず笑うマキミキ。

マキミキ「じゃあ、たくさんたくさんおしゃべりしようぜ」

 歩き出す。

 去っていく二人。

インチョー「Talk to me baby」

 歌うように。


●7

 翌日。昼休み。屋上。

 座って向かい合って昼ごはんを食べてるインチョー、マキミキ、まれ。

マキミキ「思うんだけど、学校ってけっこうエネルギーつかうよね」

 まれ、顔を上げてマキミキを見る。

 ちょっとぽかんとして。

インチョー「エネルギーは補充しなきゃね」

インチョー「色んなものからエネルギーもらわないと」

まれ「太陽浴びて光合成とか?」

 首をかしげてインチョーを見る。

マキミキ「音楽もね」

 と笑って。


●8

まれ「うどんとか!」

インンチョー「それ大事よ」

 いいこと言った、みたいな感じで指差し。

まれ「おなかすくのって、エネルギーつかうからだよね」

マキミキ「夏を乗り切るには食べないとね」

マキミキ「海行くんだよ、海!」

インチョー「海!」

まれ「海!」

 夏の日差し。




●9

トビラ

関口とチョコ。と背を向けた南。



●10

チョコ「関口、今日部活は?」

 困惑顔のチョコと無表情の関口が並んで歩いている。

関口「南くんに呼び出されてるって言ったら」

関口「三年の先輩が顔こわばらせて「帰っていいよ」って」

 とちょっと困ったように。

チョコ「まじ?」

 軽く眉をひそめる。

関口「めちゃくちゃビビってた」

チョコ「……南くん、有名人だからなー」

チョコ「喧嘩っ早くておっかねえって思われてるし」

チョコ「実際、一人で族と抗争したり、武勇伝に事欠かないし」

 南の噂のイメージ、暴走族との抗争、バイオレンス、を背負ったチョコ。

 ミスリードで怖い先輩だと思わせる。


●11

チョコ「高校入ってから学校で全然会わないけど、ちゃんと二年生になったんだよな?」

関口「しばらくバイトしてたみたい」

 チョコ、不安そう。

チョコ「なんのバイト? ヤバ系?」

関口「手配師に騙されて遠くのタコ部屋放り込まれて配管工事やってたとか言ってたけど」

チョコ「つうか、久しぶりに「会議」っていうのはなんだろ?」

関口「そりゃ俺らと話したいんだろ」

 二人の背後イメージ、なぜかベルリン地下壕の総統参謀本部会議。地図を囲むヒトラーと参謀。

関口「小学校からずーっと面倒みてもらってたから逆らえねえし」

 南のアパート前まで来る。


●12

南「チョコ」

南「関口」

南「お前ら彼女とかできてないよな?」

 散らかっている南の部屋。一人暮らし。

 チョコと関口視点で、ふんぞり返って床に座っている南。睨んでいるような顔。

チョコ「はあ」

 また始まったよ、というようにシレっとしている二人。

関口「南くん、彼女できたの?」


●13

南「できるわけねえだろ!」

 とくってかかる。のけぞるチョコと関口。

南「けどわかってるよな」

南「俺より先に彼女作るとか、そういう礼儀に反したことは俺ァゆるさねえからな?」

 と二人に向かって指差し。

南「久しぶりだから、まずちゃんとお前らとの絆を確かめたかったんだよ」

チョコ・関口{そんな絆いらねー}

 あからさまに迷惑そうな顔をする二人。

チョコ「なんかあったの?」

 と、予想はついているが、しかたなく尋ねる。

南「なんもねえんだよ!」

 とぷいっとスネるように顔をそむける。

南「いや、ま」

南「なんもないって言うとちょっとちがうんだけど」

 と溜息をつく。


●14

南「そこのコンビニに、菊池さんっていう、バイト店員がいてな」

 渋々ふうに、少しテレながら語り始めようとするが、

チョコ「フラれたの?」

 と即結論に持って行く。

南「端折るなよ!」

 涙をチョチョぎらせて。

関口「でもフラれたんでしょ?」

 容赦なく冷淡に。

南「そうだよ!」

 ぐわっと噛みつく。

 チョコ、マンガ読み始める。

南「って、オイ!」

南「ひとんち来てガンツ読み始めんなよ! 一巻から!」

関口「実績解除しまくりっスねー」

 アイマスの画面を見ている。

南「いつのまにかゲームの電源入れてんじゃねーっ!」

南「俺の話を聞け!」

南「俺たちに必要なのは」

南「対話なんだよ!」

南「お互い」

南「語らおうぜ!」

 熱い。暑苦しい。このセリフが女子パートとリンクする。


●15

 ジュースの缶を開けるチョコ。

 クールダウンして。

南「なー、どうやったら女とデートしたりできんだろ」

南「みんな、どうやって女と知り合ったり女とヤったりしてんだ?」

 と独り語りのように。

関口「彼女とかいないもん同士でこの話して実りってあるんスかねえ?」

 ともっともなつぶやき。

チョコ「とりあえず、ガッコ来たら女子とは知りあえるんじゃ…?」

 とおずおずと意見を述べる。

南「ガッコの女とつきあったりして、噂とかされると恥ずかしいし…」

 藤崎詩織風にシャイアピール。

関口「サボりすぎて留年したらもっと恥ずかしいスよ」

 と、あきれ気味に。

南「贅沢は言わねえよ」

南「AKB48なら誰でもいい」

チョコ{「みたいなタイプが好み」って話じゃないのかよ}


●16

南「じゃあチョコはももクロの中で言うと誰が好みなんだ」

 びっとチョコを指さす。

チョコ「え、AKBから選ばせてくれないの?」

 とおどろいて

南「あたりめえだろ。俺の彼女候補から選ばせるとか意味わかんねえし」

チョコ「なんの話してんのコレ?」

 バカを見るように。

南「関口はどんな女が好きなんだよ?」

 と振り返る。

関口「こないだまでやってた深夜アニメの」

南「アニメかよっ? えっ? アニメの女かよ!?」

 とアイター、みたいに頭に手をやりながら問い詰めるように乗り出す。

南「俺も好きだよ!」

 と関口の肩を両手でバンバン叩く。

チョコ{好きなのかよ!}

 関口をバカにするのかと思った予想を裏切られる。


●17

関口「「プシー・キャット・ファイト」ってやつ」

南「知らね。どういうんだ?」

関口「吸血鬼娘のウィッチハンターと魔女っ子のヴァンパイアハンターが戦うやつ」

 関口と南の背後に作品イメージ。二人のメイン女キャラ。バトルセクシー系。

南「戦って負けたほうが勝ったほうにエロス責めされるやつか」

南「女同士でイチャイチャするエロい」

チョコ「え、なにそれエロそう」

 と乗り出す。

 背後にソフトレズシーンのイメージ。

関口「なんだ、知ってんじゃないスか」

南「漫画のほう読んだ」

チョコ「え、漫画持ってんですか。俺も読みたい!」

南「富田耳鼻科で待ち時間に読んだんだよ」

南「あそこ待たされるから17巻まで読破した」

 耳鼻科の待合室でコーフン気味で夢中になって読んでいる南。こどもが隣からのぞきこんでいる。


●18

南「んで? あれのどの子が好きなの」

関口「チヅル」

南「名前で言われてもわかんねえよ」

関口「黒髪の魔女っ子のほう」

南「俺はウィッチハンターのほうだな」

南「女取りあいにならなくてよかったな!」

チョコ{二次元だけどね}

 無表情。

 ふと部屋の隅を見る。

 南のギターが転がっている。

チョコ「南くん、最近ギター弾いてる?」


●19

南「おん?」

南「ああ、弾いてるよ」

南「まあ、バンドはやってねえけど、練習はな」

 とギターをつかんで拾い上げる。

関口「チョコはフォーク&ロック部入ったけど、結局やめちゃったんスよ」

南「おー、やめろやめろ。俺は最初っから入らなかったわ!」

 とギターをかかえる。

南「直登兄ちゃんがいた頃とはもう違うからな」

南「あの人はすれ違いで卒業しちゃったからバンド組めなかったのが悔しいよ」

チョコ「……」


●20

南「直登兄ちゃんって言えば、ミキのやつどうしてんの?」

チョコ「あー……、まあ、クラス違いますけど、遊んでますよ」

南「そっか。お前ら近所なんだし気遣ってやれよな」

南「で、お前、フォーク&ロック部やめてどうすんの?」

チョコ「あ…、実はいまブルーズにハマってて」

南「ブルーズ?」

南「デルタとか?」

チョコ「うん、あとまあシカゴとか」

チョコ「ブギが好きで」

南「ブギーか」

 とピックを持つ。


●21

南「こういうの」

(ぱちん)

 とアンプのスイッチを入れてつなぐ。

(てん! とん!)

 とギターを弾く南。小さいコマ。

(びゅん!)

 オッとなるチョコ。小さいコマ。

(てん! とん!)

 ギターの弦。小さいコマ。

(びゅん!)

 あぐらかいた両膝をパンっと叩く関口。小さいコマ。

■大ゴマ

(ぎゅーんぎゅぎゅぎゅんぎゅーんぎゅんぎゅーん)

 ぐわっとギターのネックを上げる南。

 チョコにニヤっと笑いかける。

■大ゴマ

(ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅーん)

 思わずつられて笑顔になるチョコ。

 こんな曲かも

 http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=XL7ZnQvjRkw

 http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=AOUQRmUncZ4


●22

南<あのコに電話をかけたら

  あのコは言った「いますぐ家に来て」>

 

南<我慢できないよ 俺はあんまり長く我慢できない

  君と電話で話せば舞い上がる>

南<あのコは言った「浮気なんか心配しないで、あんたが欲しいの

  あんたはあたしの気持ちを知っているし あんたが泣くのを見るのは辛いから」>


南<我慢できないよ 俺はあんまり長く我慢できない

  君と電話で話せば舞い上がる>

 ギターを取り出すチョコ。

関口<ねえしゃべってくれよ おしゃべりしようよ

   おしゃべりしようよ おしゃべりしようよ

   君と電話で話せば舞い上がる オーイエー>

 膝を叩きながら。


●23

南<あのコは言った「歩くか飛ぶかしらないけど急がないでね

  死ぬまであなたのことが好きだってこと知っているでしょ?」

  我慢できないよ 俺はあんまり長く我慢できない

  君と電話で話せば舞い上がる>


チョコ<ねえしゃべってくれよ おしゃべりしようよ

    おしゃべりしようよ おしゃべりしようよ

    とってもとってもいい気分

    ねえしゃべってくれよ おしゃべりしようよ

    おしゃべりしようよ おしゃべりしようよ

    君と電話で話せば舞い上がる>

 部屋の中で座ってギターを弾く南とチョコ。


●24

(ぎゅー……びゅん!)

 フィニッシュしてギターを振る南。

チョコ「南くん、これなんて曲?」

南「直登兄ちゃんに習ったんだけど、えーとなんだっけ…」

南「「女呼んで揉んで抱いたつもりブギ」とかなんとか」

チョコ「せ、切ないタイトルだね……」

関口「しかもパクリくさい…」

南「なに言ってんだ。ブルーズにパクリはねえんだよ」

南「古いのなんて、なにがオリジナルか誰にもわかんねえし」

南「だいたいブルーズは切ないもんだ」

南「曲が明るいのは男のやせ我慢。顔で泣いて心で笑って」

関口「逆、逆」

 とかぶせる。

●25

南「関口は、もう電子オルガンやらないのか」

関口「まー、やらないわけじゃないスけど、あれ、教室通ってたから弾けるだけだし」

関口「いまはハンドボール一本スよ」

南「ふーん、久しぶりにカラオケ行くか。関口の矢野顕子のモノマネ聴きたいな」

関口「金ないスよ」

チョコ「お前、なんで女ボーカルの歌しか歌わないの?」

チョコ「しかも上手い」

チョコ「女子ウケがいいとか?」

関口「いいわけないだろ」

関口「てか、南くんギターで好きな子をホレさせるのはどうなんスか。直登兄ちゃんみたいに」

南「でもブルーズはモテないな」

チョコ「え、そうなのっ?」

●26

南「モテない男や女の怨念が渦巻いているんだぞ」

南「なんか女にモテる音楽のジャンルってあるか?」

関口「ジャズとかどうスか」

南「ジャーズー? ハードル高いだろー」

関口「スウィングとか」

チョコ「南くんにビッグバンドでやっていけるような協調性ないじゃん」

南「あっ、フリージャズってあったな」

チョコ「はあ」

南「あれ、デタラメでいいんだろ?」

チョコ{フリージャズの人に怒られるよ……}



(つづく)



↓コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/85188525

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