第19話「野球選手になろうじゃないか」



(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説>




●1

 タイトル

 午後、学校帰り、河川敷の土手の上の遊歩道。

 まれ、インチョーが歩いている。

インチョー「暑くなってきたね」

まれ「昨日のジャイアンツの試合見た?」

 元気。

インチョー「見てない」

 気のない返事。暑そうに。

まれ「ドームに試合見に行ったことある?」

まれ「ヤジるの面白いよ!」

 元気なまれ、少し元気ないインチョー。

インチョー「へー」

インチョー{興味ないなあ……}

まれ「昨日のすごかったよ、阿部、見た?」

 思い出してか興奮気味に。

インチョー「見てないっての」

 しつこいまれに、話聞いてる? と疑惑の視線。

まれ「すごかったね、ホームラン」

まれ「カーンって!」

 とはしゃいでバット振るマネ。


●2

(──ぱこっ)

まれ「だゃ!」

 と、まれの頭にカラーボールが当たる。

インチョー「!?」

 びっくり。

 頭をおさえてボールを手にして、

まれ「???」

 インチョー、大丈夫? というようにちょっと心配そうにまれの頭をのぞきこむ。

マキミキ「おーい、ボール!」

マキミキ「こっちこっちー」

 と、声のほうを振り返って見ると、河川敷の公園になっている原っぱでマキミキと小学生(4年生くらい)7人が、カラーボールとカラーバットで遊んでいて、まれたちを見上げている。

 マキミキが2人に手を振る。

まれ「あれ? マキミキだ」

 と、まれとインチョー。

 マキミキたちのところにボールを持ってくる2人。ダンボールで作ったベースが置いてある。かたわらに公園のベンチがある。

インチョー「なにやってるの」

 とボールを手渡して。


●3

マキミキ「野球!」

 と得意げにサムアップ。

マキミキ「あたしリトルでピッチャーやってたんだぜ」

マキミキ「これはカラーボールで、人数少ないから三角ベースだけどね」

インチョー「野球はわかるけど、なんで小学生にまじって……」

 と、呆れて。

マキミキ「さっき友達になったんだよ」

 得意げに。

マキミキと小学生たち「なーっ?」

 と顔を見あわせて。

マキミキ「プレイ!」

 と試合再開。マキミキの入っているチームが攻撃。

 バッターは小学生B、キャッチャーは小学生A。

 3人、ベンチに座って試合を見ながら。

まれ「どっちが勝ってるの?」

マキミキ「4回裏、2-2で同点」

インチョー「ふーん」


●4

まれ「がんばれー!」

 と手でメガホンを作って声援を送る。

(ぶん)

 空振りする小学生B。

小学生A「ストライク」

まれ「ホームラン打て!」

(ぶん)

 空振りする小学生B。

小学生A「ストライク」

まれ「なにやってんだ!」

まれ「イチローなんてなー、毎日カレー食べてがんばってんだぞー!」

 まれがいちいち大きい声をだすので辟易しているインチョー。

 まれ、インチョーのほうにむいて、

まれ「あ、知ってる? イチローって毎日カレーなんだって」

インチョー「うん、今聞いた」

 まれのテンションについてけない。


●5

 まれ、再び小学生Bの方に、

まれ「来る日も来る日もカレーのつらさがわかるかー!?」

マキミキ「カレーはもういいって」

(ぶん)

 空振りする小学生B。

小学生A「ストライク、三振」

まれ「ああー、なにやってんの」

 次の打者、小学生C。

(ぶん)

 空振りする小学生C。

小学生A「ストライク」

まれ「そんなんじゃ女子アナの嫁もらうなんて夢のまた夢だぞー!」

インチョー「なにそれ」

まれ「知らないの? がんばった野球選手は女子アナと結婚できるんだよ」

インチョー「へー」

 と、どうでもいい感じ。


●6

(ぶん)

 空振りする小学生C。

小学生A「ストライク」

まれ「もう見てらんない!」

 と立ち上がる。

 小学生Cからバットを奪い、

まれ「どいたどいた!」

まれ「代打あたし!」

小学生C「ちょ、たんま」

小学生A「なんだよー」

マキミキ「タイム!」

 と慌ててタイムをかける。

マキミキ「勝手なことしちゃダメだよ」

小学生B「さっきからなんだよ!」

小学生B「口出しするんなら自分でやってみろよ」

小学生A「まぜるの?」

小学生C「どうする? 入れてやる?」

 輪になってわいわいと話し合いをはじめる小学生たち。少し離れたところではたで見守る3人。

マキミキ「まれちゃん野球得意なの?」

まれ「やったことはないけど、あたしきっと上手いよ」

マキミキ「!」


●7

インチョー「ルールは知ってんでしょ?」

まれ「知ってるよ」

まれ「バーンて投げて、カーンって打って、ズザザー! って」

 と身振り手振り忙しく。

マキミキ「だいぶ怪しいなあ」

 チラチラと3人を見ている小学生たち。

小学生B「女だぞ? オミソにするか?」

小学生A「でも高校生だぜ」

小学生D「女子高校生ってだけで価値あるんじゃないの?」

 その視線に気がついて、

インチョー「なんか値踏みされてる…」

まれ「年上の女子が眩しい年頃なんだよ」

 といい気になる。

小学生A「じゃあどっちがいい?」

小学生B「メガネはパス」

小学生D「兄ちゃんがメガネ好きでさ」

小学生C「メガネ外すとかわいいかも」

小学生E「外したら意味なくね? キャラ弱くならね?」

インチョー「あいつら、いまメガネって言った?」

 と、自分を指して表情をこわばらせてまれに聞く。

まれ「メガネじゃん」

 とあっさりと悪気なく。

小学生C「あっちのユルそうなのは?」

小学生D「天然っぽいな」

小学生B「俺は好きかも」

インチョー「ユルいってさ」

 と、まれを見てフッと嘲笑う。

まれ「ユルくないもん。キツいもん」

(むー)

 と評価に不満げにわけのわからない抗議。

マキミキ「何言ってんの」

 と呆れて。


●8

小学生A「ま、でもマキミキが一番いいけどな」

小学生B「マキミキは俺の女だ!」

小学生A「ちげえよ! 俺とつきあってんだよ!」

 と言い合いになる。

まれ「マキミキ、めちゃくちゃモテてる!」

インチョー「うーん」

 と問題ありそうな予感。

マキミキ「えへへへへ」

 とテレ笑い。

小学生A「さっき俺なんかマキミキとチューしたもんね!」

小学生B「キスくらい俺だってした!」

インチョー「はあっ?」

インチョー「あんた小学生に何やってんのっ?」

 と驚いてマキミキを見る。

マキミキ「かわいいからほっぺにチュッてしてしただけだよー」

 と照れ。

マキミキ「こら、ケンカするならもうお前らキスしてやんないぞ!」

 と小学生に割ってはいる。

小学生A・B「……」

 とケンカをやめる。

インチョー{手なづけてる……}

 と呆れ気味に驚いてみている。

小学生A「じゃあこっちチームにユルねーちゃんとメガねーちゃんな!」

 そこでハッとして、

インチョー「あれっ、私も人数に入ってんの?」



●9

 Aチーム、マキミキと小学生小学生B・C・D・E。

 Bチーム、まれとインチョーとA・F・G。

 絵解きチーム編成。

 ピッチャーマウンドのマキミキ。

マキミキ「あらためてプレイ!」

 ケータイいじっているインチョー。

インチョー{ルール調べなきゃ}

 一番バッターまれ。

まれ「わたしホームランやってみたい。アレどうやんの?」

 と、バットを振りながら。

小学生A「……あの看板超えたら、かな」

小学生B「うん」

 と遠くの「ゴルフ禁止」の看板を指して。

まれ「ホームランてすごいことなんだから、5点くらいもらってもいいと思わない?」

 と同意を求める。困ったように顔を見合わせる小学生A・B。

マキミキ「早くー」

 とボールをもてあそんで。

まれ「よーし、女子アナゲットできるバッティングを見せてやるぞー」

 とバッターボックスに立つ。


●10

マキミキ「まれちゃんには打てないよ!」

 と投げる。

(びゅ!)

(すかっ)

まれ「へあっ!」

(すかっ)

まれ「にゃーっ?」

(すかっ)

まれ「のーっ?」

 と三回空振り。めちゃくちゃなフォーム。

小学生B「三振!」

小学生A「口ばっかじゃん!」

 とびっくりして呆れる。

 まれ、気まずそうに戻ってくる。

 小学生たちとインチョーの視線に気がつき。

まれ「別に女子アナなんか元々興味ないし!」

 と強がる。


●11

 マキミキたちAチームの攻撃。まれたちBチームの守備。

 書き直されたスコアボード。

 まれインチョーズ表、マキミキーズ裏、一回裏。0-0。

まれ「打った人が一塁に来るよりボールが来るの早ければアウトだよね?」

小学生A「一塁しっかり守ってね」

 と一塁のまれに。

まれ「うんうん」

小学生A{だいじょうぶかな?}

 と不安げ。

 バッターはマキミキ。キャッチャーは小学生A。

 インチョー、マウンドに立つ。

 メガネを外すインチョー。

小学生A「メガねーちゃんが本気を出した!」

小学生C「メガネというヨロイを脱いだぞ!」

小学生B「戦闘力が上がってる!」

 テンションあがるベンチの小学生たち。


●12

まれ「がんばれ!」

まれ「戦闘力と人気が上がってるよ!」

インチョー「うるせー!」

 とむちゃくちゃなフォームでボールを投げる。

(ぱこっ)

 打つマキミキ。

 ボテボテのゴロ。

マキミキ「ちっ」

 一塁に走るマキミキ。

 一塁から前進してたまれ、あわわっ、と、ゴロをやりすごしてしまう。

インチョー「まれちゃん!」

 と、一塁カバーをしろと指差して声をかけるインチョー。


●13

まれ「あ、うん!」

 と走り出す。

マキミキ「えっ」

 驚くマキミキ。

 まれ、思いっきりマキミキに胴タックル。

(ガッ)

(ズザザー!)

 大アクション! 一塁の手前で、まれに引きずり倒されるマキミキ。

まれ「捕まえた! 今のうちに!」

マキミキ「今のうちじゃねえ!」

 と、しがみつくまれを振りほどこうと抵抗している。

 唖然として顔を見合わせている小学生たち。



●14

 まれたちBチームの攻撃。スコアボード二回の表。

マキミキ「変なことは詳しいクセに、なんで基本的なルール知らないのかなあ」

 とブツブツ言いながらマウンドを馴らす。ほこりまみれ。

 小学生Fがバッターボックスに立ってマキミキワインドアップする。

 マキミキが投げた球が小学生Fに当たる。

(べち)

小学生F「あたっ」

マキミキ「あっ、ごめん」

小学生A「デッドボールだ」

インチョー「一塁行っていいの?」

小学生G「ボールに当たったら一塁行けるんだよ」

まれ「そうだ!」

 と何かひらめく。


●15

 バッターボックスに立つまれ。わざとホームベースに被ってかまえる。

まれ「ふふふ」

マキミキ「ははーん。わざとデッドボールになろうってんだな!」

まれ「このボールなら当たっても大して痛くないから」

まれ「デッドボール怖くなーい」

マキミキ「卑怯だ!」

まれ「作戦勝ちだよ」

<注※正式にはこの場合デッドボールにはならず、当たってもストライクになる>

 ベンチ。

 そろそろ嫌気がさしはじめる小学生たち。

 白けて見ているインチョー。


●16

まれ「さあこい」

マキミキ「それじゃあ本気を見せてやろうじゃないの」

マキミキ「リトル時代は危険すぎて封印された──」

 とツーシームのニギリを確かめる。

マキミキ「──あたしのカミソリシュートで……」

 ぐっとためて投げるフォーム。

マキミキ「お前を殺してやんよ!」

 と、リリース。

 まれの顔面にむかって飛んでくる。

まれ「ひゃっ!」

 と思わず避ける。


●17

まれ「ちょっと、顔狙うの禁止ー! 怖い!」

 と抗議。

マキミキ「そんなルールないから!」

 といじわるに勝ち誇って。

<注※あるから>

 マキミキ、気迫の表情でまれの顔めがけて投げる

(ビッ)

(ばちん)

まれ「ぎゃっ」

 と空振りしながら顔に当たる。

マキミキ「お望みのデッドボールだぜ!」

 いじわる顔。

まれ「………うーん」

 と顔を押さえているが、

まれ「まだまだー! いまのは顔面セーフ!」

 と痛みで顔を赤くして立ち上がって、やる気まんまん。

小学生A「顔面セーフっておかしくない?

小学生G「なにからなにまで最初からおかしいよ…」

 とまれたちを見て呆れる。インチョーも呆れ顔。


●18

まれ「今度は真っ向勝負だー! こーい!」

マキミキ「いい度胸だ!」

 と投げる。

(ビッ)

 目をつぶって振り出しているまれに球が迫る。

 偶然ジャストミート、ボールにめり込むバット。

(ぱッ)


●19

(こーん)

 マウンド上でフォローしているマキミキのはるか上空を打球が飛んでいく。

マキミキ「!?」


●20

 看板を悠々越えるホームラン。

 ボールが草むらに入る。

小学生A「すげえー」

小学生G「ホームラン?」

 立ち上がって呆然とする小学生たち」

 マキミキ。

 さわやかな風が吹き抜ける。

 インチョー。

 同じく風が吹く。


●21

まれ「やったー!」

 と、飛び跳ねる。

まれ「あたしのホームラン見た?」

 とキャッチャーの小学生Bに。

まれ「見た? 見た? 見た?」

まれ「見たー?」

 と飛びまわってベンチのみんなを指差して確認する。

まれ「やっぱあたし野球上手いじゃーん」

 と大はしゃぎ。

マキミキ「あっはっは!」

 と笑い出す。


●22

インチョー「おめでとう」

 と破顔する。

まれ「えへへへ」

 テレ笑い。

小学生A「ボール捜さないと!」

 とハッとして。

 わっと草むらに走っていく小学生たち。

 まれ、それを見てフッと何か思いつく。

(ぱんぱんぱんぱん)

 と軽く手拍子するまれ。


●23

まれ<野球選手になろうじゃないか

   ジャイアンツに入ろうよ>

 と唄い出す。

マキミキ「お!」

まれ<野球選手になろうじゃないか

   ジャイアンツに入ろうよ>

 マキミキ、ポケットからハーモニカを取り出す。

 マキミキ吹き始める。

(ぱらぱらぱぱッ ぱらぱらぱぱッ)

まれ<そうとも 野球選手になろうじゃないか

   ジャイアンツ以外はよく知らない>

 その歌に草むらの中で振り返る小学生たち。

(ぱぱぱぱ~ぱ~ぱあ ぱぱぱぱあぱららら ぱっぱっ ぱららら~↓)

 微笑むインチョー。


●24

 まれが歌い、マキミキがハーモニカで伴奏する。

まれ<野球選手になろうじゃないか

   来る日も来る日もカレーだよ

   野球選手になろうじゃないか

   ピッチャーになれたら人気者>


まれ<野球選手になろうじゃないか

   女子アナと結婚できるんだ

   野球選手になろうじゃないか

   働きもせずに 毎日野球だよ

   遊んで暮らそう ああ 遊んでくらそうよ

   (「野球選手になりたいブルーズ」(作詞:奈良本希)>


こんなかんじ?

http://www.youtube.com/watch?list=AL94UKMTqg-9AwokR8tWjXy_0yot32NSWG&v=G2UCOj-TWUA&feature=player_embedded#!


●25

インチョー「野球選手をなんだと思ってんの」

 と吹き出すインチョー。

 笑う3人。

マキミキ「なんか、あちーね」

 と、ふと、傾きかけた陽を見る。

インチョー「うん、のどかわいた」

 ちょっと疲れたように手で顔を扇ぐ。

まれ「はなまるうどん行こうよ。冷たいお茶ガブ飲みしたい」

 と思いついて。

マキミキ「いーねえー」

インチョー「賛成」

 と飛びつく。

マキミキ「よし行くかー」

マキミキ「じゃあウチら抜けるねー」

 と声をかけて手を振る。

小学生A「ええっ?」

 とボールを探しながら唖然。


●26

インチョー「あんたたちホコリまみれ」

まれ「はらったげる」

 とマキミキのスカートの尻を叩く。

マキミキ「センキュー」

 と去りながら。

 たちつくして見送る小学生たち。

小学生A「勝手だなあ」

小学生B「女子高校生って自由だ」

小学生G「ボールどこだよー」

 といっしょうけんめい探している。

 ふとボールを探している一人が唄い始める。

小学生C「♪野球選手になろうじゃないか」

小学生C「ジャイアンツに入るんだよ──」

小学生たち「♪働きもせずに 毎日野球だよ」

 夕焼け空。


 (おわり)



↓コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/85188761

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る