第16話「ロック・ミー」

(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説・歌>




●1

 タイトル。

 同日、放課後。

女子C「部活どうするー?」

女子B「てか部活入ったら遊べないじゃん」

インチョー{……}

インチョー{……部活に入ると2年生と接点ができる}

インチョー<このとき私は、高校生活で一番の懸案>

インチョー<──同い歳の上級生に、どう接したらいいか迷っていた>


●2

 フォーク&ロック部の部室。

(ヂンヂロヂロヂロ・ちちんちんちろん)

 椅子に座ってアンプに繋がずエレキギター弾いている長沢。

石黒「長沢先輩、さっきからそれなんの曲っすか?」

長沢「わかんね」

長沢「つか、こんなんじゃなかったし」

長沢「どうやって弾いてんのか、わからん!」

石黒「はあ?」

長沢{あのぐいぐいウネって}

長沢{唸るギター}

 思い出す。

長沢{曲が良かった、というわけじゃなく…}

長沢{音調や音色が、こう、ゾクゾクして刺さったんだよなー}

長沢{そんで音がデカくてハジケていて…}

長沢{ウチの学校でそんなギターが弾ける奴がいたのか}

 回想イメージを頭の上に浮かべて。

 音が耳の中を抜けている場面、走っている場面

長沢{あんとき居た女子が、誰か見てたかもしれないな…}

 まれちゃんの顔が思い出せない。


●3

 フォーク&ロック部の部室の前に立つインチョー。

インチョー{音楽は好きだから、たぶんなんとか……}

 部室の中。興奮気味に顔を近づける長沢。

長沢「楽器の経験は?」

インチョー「ピアノならちょっと」

 過剰な歓迎ムードにとまどうインチョー。

 長机の椅子に座らされて男子部員に囲まれているインチョー。

石黒「うお、けっこうかわいい子来たじゃん」

加川(2年・チョコのバンドのギター)「あ、香坂さんだっけ、こいつには気をつけてねー」

新田(2年・チョコのバンドのドラム)「お前はあっちいけよ、昨日さっそく1年の女子にファンができたろ!」

石黒「ふざけんなよ、あんなデブスのファンいらねえし!」

 メガネが不透明になって表情が消えるインチョー。内心気を悪くする。

インチョー{……デブスとか平気で言う}


●4

百地「がっつくな! どけどけー」

 と蹴散らす百地。

男子部員「だあああっ」

 ダンゴになって倒れる男子たち。

百地「ほら引いてるでしょー。貴重な女子なのにさー」

 と叱りながら長机の上に腰掛ける

石黒「モモっち、ひでえよ!」

百地「あたし2年の百地聡美ね、よろー」

 とインチョーに気さくに挨拶。

インチョー「よろしく…」

 ノリについていけないインチョー。

 インチョーの物怖じしない態度に、あれっ? と違和感を感じる百地。

百地「あ、うん…」

インチョー{「よろしく」に「お願いします」が足りない、って思われてる}

インチョー{それとも「生意気そう」って途惑われている?}

 百地の顔を上目づかいにうかがうように見るインチョー。


●5

百地「ま、なんでもお姉さんに相談してねー」

百地「かわいい後輩できてうれしいよ」

 と気を取り直して、ちょんちょんとインチョーの肩を叩いてフランクに接しようとしている。

インチョー{「私、本当はあなたと同い歳なんだよ」って言おうかな…}

 無表情なインチョー。

インチョー{「だから?」「後輩は後輩でしょ?」って言い返されたらどうしよう……?}

百地「あ、女子まだ他にもいるから大丈夫だからねー」

百地「どんなの聞くの? あたしメタル好きなんだけど」

 と長机からぴょんと降りる。

インチョー{………}

百地「そうだ入部届け書いてもらわないと」

インチョー<あー、もう! この自意識、ダメだ>

(がた)

 と怒ったように立ち上がる。

百地「あれ、どうしたの? 入部届け……」

 とプリントを手にしてインチョーを見る百地。


●6

インチョー「……やっぱりよします」

 視線を落として。

 唖然としてインチョーを見送るフォーク&ロック部一同。

 閉まる部室のドア。

(ばたん)


●7

インチョー<……いやんなるよ>

インチョー<自分の意気地のなさに>

 伏し目がちに廊下を歩くインチョーとすれ違うチョコ。

チョコ「お、ここだここだ」

(どんどんどん)

 とドアを叩くチョコ。

チョコ「こんちわ! 入部希望でーす!」

 廊下。

インチョー{音楽室でピアノ弾こうかな……}

インチョー{確か旧校舎に第二音楽室ってあったような}


●8

まれ「あはは」

まれ「できたできた」

 と、第二音楽室に向かうまれ。花瓶の首で作ったスライドをほうり上げてキャッチ。インチョーの前を通り過ぎる。

 走っていくまれを見送るインチョー。

インチョー「?」

 夕焼け空。旧校舎の屋上。

 マキミキが屋上に佇んでいる。フェンスをつかんでいる。

マキミキ{あ、かおりのバカだ……}

 と中庭を見下ろして。

 とりまき小島と九重と下校しているかおり。

マキミキ{ムカつく}


●9

マキミキ「!」

 と何か思いつく。

 フッと鼻で笑って、ポケットからハーモニカを取り出す。

 吹きながら足でたんたんとリズムをとる。

(ぱぁぱー)

(たんたんたんたん)

(ぱぷぱぁぱぁぱー・ぱぷ・ぱぷぱぁぱぁぱー)

(ぱーーーぴろろ~↓)

(ぱうぱうぱっぱっぱうあ~・ぱぷぱぁぱぁぱぁ)

(とぅとぅとぅ)

マキミキ<かおりちゃん かおりちゃん

     あんまりイバるなよ>

 ふん、ざまみろ、というようにご機嫌に歌いだすマキミキ。

マキミキ<いつかは死ぬんだよ

     倒れて 死ぬときが来る>

(とぅるとーとぅるとぅーぱぱぁぱぱ)

(とぅるとーとぅるとぅーぱぱぁぱぱ)


●10

 愉快そうにハーモニカを吹くマキミキ。

 憂さ晴らし。

マキミキ<あたしはピストルを買いたい

     弾も40発ね かおりちゃんを撃つの

     あれあれ まっすぐ地獄行き…>


マキミキ<あの女の墓を掘るよ

     銀の鍬でね この墓にはあの女以外入れない

     そう誰もね…


     だからかおりちゃんに頼むの 

     あまりイバるなと いつかは死ぬんだよ

     倒れて 死ぬときが来る>


マキミキ<あの女の墓を掘ってやる 

     うんとうんと深く

     遺体を埋めてから 哀れむかもね


     だからかおりちゃん かおりちゃん 

     あまりイバるなよ いつかは死ぬんだよ

     倒れて 死ぬときが来る>

 (『かおりちゃんBlues』作詞:玉木未来)


http://www.youtube.com/watch?v=3kNgeHEoU9c&feature=related

http://www.youtube.com/watch?v=aLKvn6WRwQM


●11

 第二音楽室の隣の準備室。

 ギターケースを開けているまれ。

 マキミキの歌とハーモニカが屋上から聞こえてくる。

まれ「えへへ、これで学校でも弾けるね」

(ぱららぱ~…)

(ふわっわっぱ)

 ふと顔を上げて、

まれ「あれ、ハーモニカブルーズ……」

(~♪ぱららら~ ぱぱぁ)

 同時。階段をのぼっているインチョーもハーモニカと歌に気が付く。

インチョー「「クロウ・ジェーン」に似てるような……?」

インチョー「この屋上?」

 まれ、第二音楽室のピアノの近くに椅子をおいて座る。

まれ「んん、この曲知ってるかも」

(ぱぁぱぁぱぁ とぅるとぅー)

(とるる~)

 ギターをかまえるまれ。

まれ「こうかな?」

 マキミキのハーモニカに合奏しはじめる。

(ちゃらんちゃらつん つっちゃちゃらん っちゃっちゃらん っちゃっちゃらん)

(ぼんぼん ぼんぼん)


http://www.youtube.com/watch?v=FBTkc8CYm94&feature=related


●12

(ちゃららっちゃらっちゃ ちゃんちゃらん っちゃんちゃらん)

 まれのギターの音を聞いて、同時にハッとするインチョー、

 とマキミキ。マキミキ、ハーモニカから口を離して顔を上げる。

マキミキ「誰だー? 勝手に入ってきて……」

 と振り返る。

(でんでらでんでらっちゃ パンパーン!)

 耳に抜ける音。

マキミキ「……な、に、この、ギター」

(ぱんぱびゅーんびゅびゅびゅん)

 胸をおさえて棒立ちになる。

マキミキ・インチョー{音が刺さる……}

(ぴゅんぴゅんぴゅーん)

(ぴゅんぴゅんぴゅーん ぴゅーんぴゅーん↓)

 二人にオーバーラップする弦の上を滑るスライド。


●13

 いつのまにか第二音楽室。

 スライドを滑らせて背を向けてギターを弾いているまれ。髪の毛が逆巻くイメージ!

 ドア開けっ放しで、中に入って驚いて立ち尽くしているマキミキ。その後、ドア近くに同じくインチョー。二人の驚愕の表情。


●14

マキミキ{割れた花瓶の首で作ったスライド……!}

 まれの左手。

マキミキ{そっか、この子、右手の爪が伸びてたのって、ギター弾くから……!}

 あー! と見過ごしていた自分のうかつにあきれと驚きないまぜのマキミキ。

マキミキ{音の大きさ、響き、音色、どう言っていいかわかんないけど}

マキミキ{とにかく音が──}

 身体をゆするマキミキ。踊りそう。

 目がうるんで輝く。

マキミキ{──普通じゃない!}

インチョー「すごいブルーズギターね……」

 うなずいてリズムをとってるインチョー。

マキミキ「…!?」

 インチョーのつぶやきに「んっ?」となるマキミキ。

 目が合う二人。

 振り返ったマキミキはインチョーを認めてちょっと「はっ」とびっくりする。なんでこいつが、みたいな。

マキミキ「…うん、すごい」

 と、好意的にうなずいてまれちゃんを見る。


●15

マキミキ「よっし!」

 と笑顔でハーモニカを手にする。

(ぱうぱぱうぱぱうぱぱうぱ・ぱっぱー!)

 とハーモニカを吹いて逆乱入するマキミキ。

 驚いて振りかえるまれ。

 ニッと笑うマキミキ。

(ぱーぱぁぱららぱ ぷわぁーあああ)

 とハーモニカを吹くマキミキ。

 それを見てパッと笑顔になるまれ。

 わっと、楽しそうに合奏するマキミキとまれ。

まれ<かおりちゃん かおりちゃん 

   あまりイバるなよ いつかは死ぬんだよ

   倒れて 死ぬときが来る>


●16

インチョー<ブルーズの魔力は 音(ルビ・サウンド)にある>

 まれが、ギターを持ち上げて頭を振り上げると、ばさっと髪が舞う。

インチョー<その音の一節だけで聞き手を惹きつけ 虜にする>

 ハーモニカを吹き鳴らすマキミキ。

インチョー<音は歪み 弾むリズムで>

インチョー<哀しく滑稽な 人の気持ちを複雑につかむ>

 まれの狂気を秘めた瞳の光、どこかデモーニッシュな笑顔。

 フィニッシュを決めたまれとマキミキ。


●17

インチョー「……なんで」

 インチョー後ろ姿。肩が震える。

インチョー「こんなにも私を揺さぶるの……」

(ぐすっ)

 ハタと、その声にインチョーのほうを見るまれとマキミキ

(ずっ…)

 と視線を落として涙をこらえているインチョー。

インチョー「………」

 口を開けて涙を流し、鼻水よだれを拭きもせず声もなく大泣きしている。

 子供みたい。


●18

 まれ、マキミキ、意外すぎるインチョーの涙にビックリ。

 えぐえぐっと泣いているインチョー。

 呆然とするマキミキ、オロオロしてがたっと立ち上がるまれ。

 手を前に出しつつインチョーに近寄りながら。

まれ「ご、ごめんなさい!」

 となぜか謝る。

インチョー「……私こそごめん」

 と両手で目をこする。ボロボロ落ちる涙。

 ハンカチを差し出すまれ、自分のハンカチを取り出すインチョー。

 お互いに謝っている。

インチョー「ごめん、ちがうの……、うう」

まれ「ごめんなさい、泣かないで~」

 離れたところで見て

マキミキ{なんだコレ……}

 と口を開けて呆然としている。


(つづく)



ロック・ユー! されたインチョー。

だが彼女たちはまだまれちゃんの本当のすごさを知らない!

次回いかに! 



↓コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/85187704

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