第15話「パワーと機転と怪獣」
(擬音・吹き出し外文字)
「セリフ」
{人物モノローグ}
<ナレーション・モノローグ・解説・歌>
●2
■
がらんとした第二音楽室の前の廊下。無人。
放送「新入生オリエンテーションの部活動紹介は体育館で行ないます」
放送「すみやかに移動してください」
■
まれちゃんが準備室でごそごそしている。太鼓や楽器がゴロゴロしている。
まれ「あ、ギター」
■
ギターケースを開けるまれ。
(がちゃ)
■
まれ「!」
嬉しそうにスチール弦のフォークギターを見つけて取り出す。
●3
■
体育館。
椅子とかなくて、暗幕も無し。パラパラと生徒が集まり始めている。
■
体育館舞台袖。
生徒会長「それじゃあ各部、順番の2つ前までには舞台袖に集合しておくように」
各部代表(の一部)を集めて打ち合わせ。
■
生徒会長「割り当て5分だけど、短いなら短いでいいですから」
フォーク&ロック部の代表バンド、ボーカルの2年生石黒が、ギターの3年生長沢の代わりにいるが、不安そうにキョロキョロしている。長沢がいない。
■
解散して体育館の客席側(?)隅へ走ってくる。
石黒「モモっち、長沢先輩は?」
と壁に寄りかかっている2年女子の百地に。
百地「トイレ行くって出てってからまだ戻ってないよ」
■
石黒「ウチ5番目なのに~」
百地「長沢先輩、うんちじゃない?」
●4
■
石黒「あの人、長グソなんだよーっ」
旧校舎のトイレ。
(ヘクション!)
長沢のクシャミ。
■
長沢{人があんまり来ない旧校舎の便所じゃないと、落ち着いてクソできねえんだよな}
としゃがみこんでいる。
■
(でんでろでろでろ・べべんべんべろん…)
長沢{ん?}
上の階の第二音楽室からまれのギターの音がきこえてくる。
禍々しい、不安な感じの音。
http://www.youtube.com/watch?v=fQnXIdyXOBk&feature=player_embedded#!
↑こんなテンポの。スライドは使わない感じで。
■
(でんでろでろでろ・べべんべんべろん…)
耳を澄ます長沢。
長沢{お? なんだ、この地の底から轟くような音……?}
●5
■
(てんてろ・てんてたーん てんてろ・てんてたーん)
(てーん! てれんてんて)
合いの手で高い音が入り、耳を通り抜けていく。
ハッとする長沢。
■
(ジャー!)
(でんでろでろでろ・べべんべんべろん…)
トイレから廊下に出る長沢。キョロキョロしてどこから聞こえてくるのか探す。さっきより大きな音。
長沢「うおぉ、このリフ、グッと来る」
長沢「ロック魂を揺さぶるぜ!」
■
階段を駆け上がる長沢。
(てんてろ・てんてたーん てんてろ・てんてたーん)
(てーん てれんてんて)
長沢「すげえ、かっこいい」
●6
■
長沢{生ギターでこんなに力強くてデカい音……}
長沢{しかも速い…!}
長沢{誰が弾いてるんだっ?}
(テンテレンテレンテンっ!)
と曲が終わる。
■
廊下を走る長沢。
長沢{あれ、終わった?}
■
(がらがら)
音楽準備室のドアを開ける長沢。
■
まれ、しゃがみこんで、ぱたん、とケースを閉じたところ。
長沢「っ!?」
■
まれ「?」
立ち上がってぽかんと振り返るまれ。
音楽準備室と第二音楽室を交互に覗き込む長沢。
長沢「あれっ? あれっ?」
●7
■
立ち去ろうとするまれ。
長沢「あっ」
長沢「待って、ねえ」
長沢「今ここでギター弾いてたのキミ?」
■
まれ、一瞬固まる。
■
ぶんぶんと首を振るまれ。髪がばさばさ振られる。
長沢「あ、そう…」
■
長沢{そうだよな、あんな子があんな大きな音出せるわけない…}
と去っていくまれをしげしげと見る。
■
首をかしげて混乱する長沢。
長沢「あれ?」
長沢「え、でもじゃあ、誰が…」
●8
■
放送「フォーク&ロック部の長沢くん、フォーク&ロック部の長沢くん、至急体育館まで来てください」
長沢「あっ、やべ、出番っ」
と放送スピーカーを見る。
■
(だだだだっ)
まれちゃんを追い抜いて走っていく。
■
体育館。
ステージの上でサッカー部がリフティングしている。
サッカー部キャプテン「えーとサッカー部ではー…」
マイクでなにか話している。
適当に立ったり座ったりしてバラバラにステージのほうを見ている生徒たち。
■
長沢「石黒わりい!」
石黒「先輩おせえっすよ、ギリギリ」
舞台袖に駆け込んでくる長沢。
■
百地「うんち出ました?」
長沢「うっせえよ!」
●9
■
生徒会長「次はフォーク&ロック部です」
(おおー)
と軽くどよめき。
■
壁に寄りかかって見ているインチョー。
■
ステージで演奏が始まる。
■
違う壁際に立っているマキミキ。
■
歌う石黒。自己陶酔っぽい。
ギターを弾く石黒。
■
ドラムの3年Aとベース3年B。
●10
■
かぶりつきで跳ねようとしているノリノリのチョコ。
冷静に「タテノリ禁止です」みたいにそれを抑えようとしている関口。
■
九重「ギターの人カッコよくない!?」
とかおりを振り返る。石黒のこと。
かおりと小島、「えー」みたいな顔している。
■
インチョー{………}
無表情。いいと思ってるのか悪いと思ってるのかわからない。
けど、入ろうかな、とこのとき思った。
■
マキミキ{バンドはお兄や先輩たちとやっていればいいし、部活でもやることないしな……}
悪くないと思っているが、チョコとのことがあったのでいこじになってる。
●11
■
翌日。教室の前のほう。
男子C「うおっしゃー」
男子D「おっとタックルー!」
男子E「おおいっ」
男子D「テイクダウン!」
ふざけてとっくみあいしているクラスの男子。
(ドタタっ)
男子B「うるせーぞ」
(ぎゃはは)
■
教員机にガタっとぶつかり、置いてある空の陶器の花瓶がグラっとなる。
■
(がちゃーん)
男子E「ああっ」
床に落ちて割れる花瓶。
■
窓枠にもたれて外を見ていたマキミキ、うるさそうに振り返ってみる。
■
割れてコロコロと転がる細い花瓶の首。スライドにちょうど良さそうな長さ。
女子A「やだちょっとー」
女子D「あーあ」
■
女子B「ちゃんと片付けなさいよあんたたちー」
男子C「はーい」
(だははは)
●12
■
自分の机に座ろうとして横に立っていたインチョー、騒ぎを見てためいき。
隣に立っていたまれ、床に落ちている何かを見つける。
■
男子D「ほうき、ほうき」
まれの手が、転がっている花瓶の首を拾おうと伸びる。
周りに破片が散らばっている。
■
目ざとくそれを見て、
インチョー「危ない」
インチョー「指切るから触らないほうがいいよ」
とまれの背に声をかける。
■
まれ、その声がきこえてない。宝物でも拾ったように花瓶の口を右手でつまんで上に掲げて見上げる。
何か思いついたらしい。
■
インチョー{マイペースな子だなあ}
とため息をついて席に座る。
まれ、楽しそうに窓のほうへ。
●13
■
まれ、窓から少し乗り出して花瓶の首の切り口をコンクリのザラザラの壁に押し当てる。
■
(ごりごりごりごり)
花瓶の首の切り口を削り始める。
■
隣の開いた窓からそれを見ているマキミキ。
マキミキ{……ナニやってんだ?}
変人を見るように。
■
女子A「ねー、なにやってんのー?」
と、女子AとB、まれの完全背後から声をかける。
■
(ごりごりごりごり)
鼻息荒く夢中になっているまれ。
■
女子A「え、なんでシカトされてんのあたし?」
とまれを指差して女子Bに。
女子B「……」
さあ、と首をすくめて小さく手を広げるジェスチャー。
●14
■
女子A「あれ?」
乗り出した身体を支えるために窓につけているまれの右手。
爪が長いのに気がつく。
■
女子A「奈良本さんツメすっげー伸びてるよ?」
女子B「ほんとだ」
とまれがゴリゴリやっている背後でまれの爪を見ながら話している女子たち。
女子C「それ伸びてるってか伸ばしてんでしょ?」
と、一応フォロー。
■
女子B「え、でも、なんもやってないけど…」
女子C「ねえ、奈良本さんネイルとかやんないの?」
■
まれ「えっ!? なにっ?」
といきなり大声で振り返って。なんか嬉しそう。
大声にびっくりする女子3人。
●15
■
女子A「……声大きいよ。ウチらの話きいてなかったの?」
耳元で怒鳴られて耳が痛い、とアピールするように指を自分の耳に入れて。
■
まれ「ご、ごめんねー……」
と、とまどいつつ、もうしわけ無さそうに。
■
まれ「な、なんて言ったの?」
女子A「もういいよ、別に…」
と背を向けて離れる。
■
まれ「……」
しゅんとなる。
ふんっというように女子BとCも女子Aに追従して離れていく。
■
女子A「……声デカイしさ、何度も同じこと聞き返してくるし」
とインチョーの後でコソコソとまれの陰口を言い始める女子3人。
聞いているインチョー。
■
女子B「そうそう、なんかちゃんと話聞いてないんだよね、返事もてきとうだしさ」
まれ、窓から乗り出してゴリゴリを再開する。
●16
■
女子A「そんでノリ悪いっていうか、反応薄いし」
マキミキの耳にも入ってくる。
マキミキ{……確かにちょっと変な子だけどさ}
■
マキミキ{陰口は聞こえないとこで言えよ}
窓から乗り出しているまれをチラっと見る。
■
マキミキ{ニブイんだか図太いんだか…}
まれ、花瓶の首をゴリゴリ。
■
女子B「つーかさー……」
マキミキ{……}
マキミキ、女子3人がマキミキの机の前でたむろしているのをチラッと睨みながら席に座ろうとする。女子Cはマキミキの机に尻を乗せている。
(がたっ)
■
女子C「!」
邪魔だ! と言われたかのようにびくつく。
マキミキ{?}
■
女子B「大丈夫?」
女子C「うん…」
こそこそっと離れる女子3人。
マキミキ{ビビりすぎだっつの……}
と呆れる。
●17
■
マキミキ{いや、他人のことはともかく、いつのまにか完全にクラスで孤立してるわ}
と遠い目。ふっと自嘲気味に笑う。
■
インチョー{……とはいえ}
うつむきかげん。
インチョー{もうこのクラスの退屈な空気に、今さら上手く溶け込む気にもなれない……}
■
まれ、窓から外を見ながら花瓶のボトルネックをかざして怪獣に見立てている。
まれ{校舎の陰から怪獣が、にゅーって出てきたら……}
まれ{ぐわーって、みんなを食べちゃう}
まれ{のこらずきれいに!}
■
インチョー{あの子くらいのパワーがあれば、私もアクティブになれるのかもしれない}
前から振り向かず目だけで後のマキミキのほうを意識するように。
■
マキミキ{ヤツほどの機転が利けば、あたしも上手くやれるんだろうけどね}
インチョーの背中を見ながら。
●18
■
マキミキ・インチョー{けど、話しかけるきっかけがつかめないなあ……}
ため息。コマ二分割か、引きで教室前景。
ここのせりふ{新しい友だち作るのって難しいなあ……}
{まあ、あんなにツンケン周りを威圧したりしないけどね……}
{けど、むこうは絶対友だちとかいなさそうだなあ}
{あんなにツンケンして、人嫌いなのかなあ}
{でもあっちも友だち作るの苦手そうだなあ}
{でも、あっちほど人づきあい下手じゃないと思うんだけどな……}
{けど、怖そうだからこっちからかかわらないでおこう……}とか
{ま、ああいう奴とは仲良くできる気がしない……}
■
授業中。
教師。
マキミキ<なんか……退屈な三年間になりそう>
マキミキ<学校にいるあいだは死んだふりしてようか>
■
マキミキ<全力で死んだふりして力をためるんだ>
机につっぷしているマキミキ。
(つづく)
↓コンテ
https://www.pixiv.net/artworks/85187075
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます