第12話「ラーメン食べやすい髪型」


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説・歌>



●2

 冬。夕暮れ。

 道路標識。

少女の歌<十字路に立つうちに 陽は落ちていく>

 4車線道路の交差点。

少女の歌<十字路に立つうちに 陽は落ちていく>

少女の歌<きっと自分も憂鬱に沈んでいく>

 英語の歌を唄う少女の口元。

 弦の上を滑るボトルネック。

 街灯から外れた闇の中にギターを爪弾く少女が独り。

 そのシルエットは常にはっきりと見えない(太っていることがわからないように)


●3

モノローグ<死にたくなる理由は

      山ほどあるけど>

 弦を爪弾く右手。

モノローグ<それを誰にでもわかるように説明するなんて>

モノローグ<そんなことをするくらいなら>

 呪いを暗示するような少女の不気味な影。

モノローグ<死んだほうがまし>

 少女の長い髪の毛。


●4

 夜空と信号機。

モノローグ<でもほんとうに死ぬのは怖いから>

モノローグ<そんなの全部

      笑い飛ばせる力がほしい>

 すっかり暗くなってしまった辺りの景色。

 大規模な下水道工事の作業帯。大手ゼネコンが参加しているJVの看板が出ている。

 午前2時を示す近くの公園の時計。

モノローグ<全部笑い飛ばせたら>

 近づいてくる道路工事の警備員の足。

モノローグ<死ぬのだって怖くない>

 少女の影がふと顔をあげる。

モノローグ<魂だって惜しくない>


●5

 少女の前に工事現場の警備員が立っている足元。

警備員「やあ」

少女「……」

 息を呑む少女の口元。

警備員「契約」

警備員「魂と引き換えだよ?」

 よく見えない顔。

モノローグ<──悪魔は

      笑顔で来た>


●6

 放課後。

 はなまるうどんの店内。

 カウンター席。

 まれ、マキミキ、インチョー、がトレイにのせたうどんを前にしている。

 まれの隣にマキミキが、マキミキの隣にインチョーが座る。

 肩触れ合いそうなくらい距離近い。

三人「いただきまーす」

まれ「あっ」

まれ「ラーメン食べやすい髪型にしなきゃ!」

 と、いそいそと前髪からサイドにかけての髪を耳にかけ、肩の後ろへかける。

マキミキ「……ラーメンてかうどんじゃん」

 と呆れる。

まれ「この髪型のことを「ラーメン食べやすい髪型」って言うのっ」

 とムキになって自分の髪型を誇るように指差す。

 あー、そう、と、うなずくマキミキ。


●7

マキミキ「まれちゃん、髪少しは手入れしたほうがいいんじゃない」

 と、まれの毛先の枝毛をつまむ。

インチョー「自分で切ってるの?」

まれ「うん」

マキミキ「いつから伸ばしてんの?」

マキミキ{伸ばしてるっていうよりか伸びてるだけか}

まれ「いつかなあ?」

 とうどんをすすりながら上を見て。

まれ「でもよくくっつけられたガムが取れなくて、そこだけ切ったよ」

まれ「だからホラ、こことか、ちょっと不揃いなの」

 と部分的に短い髪の毛を肩越しに示す。

マキミキ「え、ガムくっつけられた?」

 と顔をしかめる。


●8

まれ「うん」

まれ「知らないうちに誰かに」

 パラパラと無残に切られた髪の毛とハサミのイメージ。

マキミキ「……それ、いつの話」

 と少し驚いて。

まれの声「中学校のとき」

 うどんをたぐる箸を持つ手が止まっている、シリアスなインチョー。

 うどんをすすり続けるまれ(表情見えない)を、何か言いたげに見つめるマキミキ。

 何を言ったらいいのかと、苦悩するマキミキ。

 おでこに指を当てて言葉を探しているマキミキ。顔芸。


●9

マキミキ「それイ…」

 とまれに何か言いかけたとき(いじめられていたのか、とかそういうことを訊ねようとして)、

(どすっ)

 と反対隣のインチョーが肘で突いてくる。

マキミキ「…いっ」

 と突かれたとこを押さえて少しだけ身体を折る。

インチョー「まれちゃん、七味とって」

 と素知らぬ顔で声かける。

まれ「あい」

 となんでもない表情で手渡す。

インチョー「サンキュ」

 と無表情に受け取る。

 ぱっぱっと七味をうどんにかけるインチョーを涙目で恨めしそうに見るマキミキ。


●10

 なにごともなかったように楽しそうに街を歩いている三人。

 マキミキを先頭にして後をまれとインチョーが並んでいる。

マキミキ「夏になったらさ」

 と振り返り。

まれ「うん」

 反射的にうなずく。

マキミキ「海行こう」

 ニカッと笑って。

まれ「海」

 ポカンと言葉を返す。

マキミキ「三人で水着買ってさ」

マキミキ「きっと楽しいよ!」

 と笑いながらインチョーとまれの間に入って二人の肩を抱く。

まれ「…うん!」

 嬉しそう。


●11

 まれと別れた後、電車の中。

 インチョー(向かって左)とマキミキ(向かって右)が並んで座っている。

インチョー「さっきごめん」

 ふいに、視線を下のままつぶやく。

 軽くハッとしたような顔のマキミキ。

 マキミキ、インチョーの顔を見る。

インチョー「でも余計なこと言いそうだったから」

 とマキミキの顔を見る。

マキミキ「……うん、いいよ」

マキミキ「ほんと余計なことだったかも」

 と視線を落として。


●12

マキミキ「まれちゃんってさあ…」

 と思い出すように宙を見上げて。

マキミキ「いや…」

マキミキ「そうでなくて」

 と視線を再び落とす。

マキミキ「あたしって、まれちゃんのこと、なんにも知らないなあって思うんだよね」

 とインチョーを見ないように。

インチョー「……うん」

 と自分もそうだというように同意する。

マキミキ「他人のことを詮索する奴って、やだなあ、って思ってたけどさ」

マキミキ「友達のこと、ちゃんと知りたいっていうのは、あるよね?」

 とインチョーを見る。

インチョー「うん…、そうだよね」

 視線を落として。


●13

マキミキ「でも、まれちゃんに拒まれたらさ」

 わずかにハッとするインチョー。

マキミキ「もし…、もしだよ?」

 と寂しそうに下を見て。

マキミキ「「これ以上近寄んないで」って言われたら」

 マキミキを見るインチョー。

マキミキ「…あたし、怖いっていうか」

インチョー「わかるよ」

 と、マキミキの言うことをさえぎるように。

マキミキ「わかるよねっ?」

 と少しホッとして、パッとインチョーと目を合わせる。

マキミキ「まれちゃんのそういうとこが全然見えないんだ」

 まれの笑っている口許。

 不安定なトリミングのフレーム


●14

インチョー{そう、丸見えの底なし沼みたいな}

 遠くを見るようなインチョーの目。

インチョー{深い深い、底なしの}

 電車の窓の外を夕陽が沈んでいく。

インチョー「ねえ」

インチョー「まれちゃんが悪魔と契約したって話、マキミキはどう思う?」

マキミキ「え?」

 十字路のイメージ。


(つづく)


↓コンテ

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