第11話「道端でのたれ死んだらかわいそうじゃない?」

(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説・歌>



●2

 放課後。第二音楽室。

 インチョーがピアノを弾いてる。

 マキミキはボンヤリと窓枠に頬杖をついて外を見ている。

 まれちゃんはギターのハードケースを準備室から引っ張り出してきたところ。

(とんたん とんたん とんたん とんたん)

マキミキ{そういや、あいつ}

マキミキ{屋上で弁当食べた時っきり顔合わしてないな……}

 と紙パックのジュースをストローで飲む。

(ぴんぴろん ぴんぴろん ぴんぴろん ぴんぴろん)

(たんたたんたたたん たんたたん)

 ピアノを弾きながら、

インチョー{彼が来ないのは}

インチョー{ちょっと意地悪しすぎたからかな…?}

 ギターをケースから出しながら、

まれ「なんかさー」

(ぴんぴろん ぴんぴろん ぴんぴろん ぴんぴろん)


●3

まれ「最近チョコくん来ないよね?」

 ドキッとするインチョーとマキミキ。

(がんっ)

 とピアノ止まる。

インチョー「そ、そうね? どうしたんだろうね」

 と動揺を隠そうとする。

マキミキ「い、いいんじゃない?」

マキミキ「アイツまれちゃんのギターの邪魔だし」

 と焦りながら。

まれ「?」

 と二人の様子をいぶかしむ。

マキミキ「なにやる?」

インチョー「まれちゃんリードとってよ」

 と取り繕う二人。


●4

チョコ{俺がフォーク&ロック部やめたのは}

チョコ{まれちゃんとバンドを組むためだったのに}

 第二音楽室の前の廊下をとぼとぼ歩いてくるチョコ。

チョコ{まれちゃんはシャイすぎて人前でギターが弾けないから}

チョコ{バンドは無理だと…}

 ギターケースを背負いなおしてうつむきつつため息。

チョコ{それどころか、俺が見ていると弾けない}

チョコ{かろうじて背を向けてなら弾けるけど、それじゃギター教えてもらうこともできない…}

 回想イメージ。まれちゃんの後向き演奏。

チョコ{でも友達のミキやインチョーとなら平気でセッションできるのに…}

チョコ{つまり俺とは友達じゃないってこと…?}

 ハーモニカを吹くマキミキと、ピアノを弾くインチョーのイメージ。

チョコ{いやいやっ!}

 と、バッと顔を上げる。

●5

 8話回想。

まれ「わたしも」

まれ「友達ができてよかったよ?」

チョコ{あのときの『友達』って俺のことを言ってたんじゃないかな?}

 と少しテレてにやける。

チョコ{……でも、ミキやインチョーとのこととも取れるか?}

 と再び下を向く。

チョコ{いやいや! 俺もまれちゃんの友達として認められたんだきっと!}

 と顔を振って奮い立つ。

チョコ{そうだ! 絶対そうだ!}

 第二音楽室のプレート。

チョコ{だから俺もこの一週間練習の鬼と化した!}

チョコ{だったらまれちゃんは俺と一緒にギター弾けるはず!}

 と第二音楽室のドアの前に立ってドアに手をかける。


●6

 静寂を切り裂くように、ギターの弦の上をスライドが滑って稲妻が走る。

 無音。

 ギターを抱えてて得意のリフを弾くまれちゃん。

 髪が風でたなびくように!

 イメージで髪はさらに長く多く!

 剣豪にバッサリ斬られる効果みたいに、時間差で音が鳴ったように、まれちゃんのギターが唸る。

(みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃーみゃん)


●7

 チョコの足元から、ぐにゃあっと歪む絵。

(みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃーみゃん)

 次のコマにかかるようにトグロを巻いてチョコの世界を歪ませる。

 魂を持っていかれたように衝撃を受けているチョコの顔。

(ぽっっぽーんっ)


●8

(ぎゃっくぎゃっくぎゃっくぎゃっく)

 まれが抱えるギターのボディ。

 まれの集中している顔。デモーニッシュに。わずかに狂気を湛えた目。

(ぎゃっくぎゃっくぎゃっくぎゃっく)

 注視しているマキミキとインチョー。


●9

 ふわっと着地する有翼の悪魔のようなまれちゃんのイメージ。

 ギターを弾きながら、目を伏せ、翼のように広がるまれちゃんの髪の毛。

チョコ<ああ、この音>

チョコ<本当にギターなのか>

 チョコ、まれの音にしびれてゾクりと興奮している。

(みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃーみゃん)

インチョー「『ダスト・マイ・ブルーム』ね」

 マキミキ、ハーモニカを持って、ニッと笑って愉快そうに唄い始める。

マキミキ<明日の朝起きたら 出て行ってやるんだ>


●10

マキミキ<朝一番で起きたら 出て行ってやるんだ

     そう 好きで好きでしょうがない男と 別れてやるのよ>

 切ない顔。

 マキミキ、ハーモニカを構えて大きく吸う。

(ぱらぱぱーぷわぁー↓)

 インチョー、ピアノを弾きながら引き継いで歌う。

インチョー<あたしはメールする 知ってる番号は全部電話してみる>

インチョー<あたしはメールする 知ってる番号は全部電話してみる

      あいつが新宿にいなけりゃ 池袋にいるのは分かってんの>

 愛憎を込めた眼差し。


●11

 まれ、ジャンジャカ弾きまくる。

 その後でハーモニカを口から放して張りあげるように絶唱するマキミキ。

マキミキ<街中の女とやりまくる そんな男なんかいらない

     街中の女とやりまくる そんな男なんかいらない

     だけど あいつが道端でのたれ死んだら かわいそうじゃない?>


マキミキ<ああ あたしには

     あたしには分かってんの もうそんなに長くないって

     ああ あたしには

     あたしには分かってんの もうそんなに長くないって

     別れたりなんかしない ふたりの幸せを壊したくない

     (『Dust My Broom』誤訳:坂井音太)>


参考:

http://www.youtube.com/watch?v=aKo80b-QfK0&feature=related

http://www.youtube.com/watch?v=kLYV0uwbxno&feature=fvwrel

http://www.youtube.com/watch?v=LIGxeQKQs-0&feature=related

http://www.youtube.com/watch?v=e3vccYHM6KA&feature=related

http://www.youtube.com/watch?v=U6Whn3oiKaI&NR=1


●12

チョコ「よーしっ」

チョコ「俺も参加するぞっ」

チョコ「今こそ練習の成果を見せる時!」

 とソフトケースからギターを出す。

(しゅっ)

 ミニアンプにプラグを繋ぐ。

(ぐっ)

 ミニアンプをお尻の上のベルトにひっかける。

(すちゃっ)

 ストラップをかけてギターを構える。

(しゃきーん)

(がらがらっ!)

 とドアを開けて入る。

 指にスライドはめている。

チョコ「怒濤の三連スライド!!」

 笑顔!

(ちゃらら・ららら・ららら・ららら・らーら)


●13

 唖然として振り返る三人。まれは背中越しに顔真っ赤。

 演奏がピタリと止まる。

チョコ「あれ?」

 と固まるチョコ。

 時間飛んで。

マキミキ「今までで最悪の登場のしかただよ!」

 と腰に手を当ててチョコを見下ろす。

 アオリ構図でギリギリパンツ見えないくらい。

 正座させられているチョコ。

チョコ「だって…」

 もうしわけ無さそうに。

マキミキ「だってじゃないだろ!」

マキミキ「セッションに入りたかったら空気読んで流れ読んで調和とれよ!」

まれ「まーまー」

 とまれとインチョーがなだめる。


●14

チョコ{やっぱ、まだ俺は、まれちゃんと友達じゃないのかな…}

 とマキミキをなだめているまれちゃんを見て。

インチョー「マキミキもさ──」

 と横から声をかける。

インチョー「──セッションに参加するなって言ってるわけじゃないから」

インチョー「ね?」

 とウィンク。

まれ「ほら、ねえ」

まれ「チョコくん、ギター聴かせて!」

 にっかり笑う。

 チョコが目を丸くする。

 認められていることに気がつく。

マキミキ「ふん! じゃあ練習の成果って奴を聴かせてもらおうか!?」

 フキダシに顔。

チョコ「お、おうっ、魂のブルーズだ!」

(ちゃらら・ららら・ららら・ららら・らーら)

 第二音楽室の外、開いた窓からチョコのギターが響く。



↓コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/85186180

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る