第十八話 因みにアンズさんは安藤ロイドの素顔を見て衝撃を受けている
◇◇◇◇◇
結局、お昼ご飯は出前を取る事になった。
代表してカイザーさんが電話をとっているがどうもおかしい。貴方さっきから何件に頼んでるんです?
「じゃあ、その特盛大海原五人前……いや十人前で。はい、頼んます。っと次は……」
まだ頼んでるぞあの人。近所の店を網羅する勢いだ。そしてあのニヤケ顔。間違いなく私頼みだ。
結局、後頭部をアンズさんにはたかれてようやくカイザーさんは止まった。経費で落とすって誰かが言ったから暴走したんだ。カイザーさんはきっと、隙を見せれば調子に乗りこなすタイプに違いない。
アンズさんの控え室では収まりきれぬほど、この世のありとあらゆる食文化がきてしまったので私たちは大広間に移った。寿司に中華にイタリアンに、ここだけグローバル極まってんねぇ!
「エガヲがあと百人は必要ダ」
的確な計算を導き出したショコラさん、次々と運ばれる料理に最初こそウキウキだったのに今は少し引いている。
「どうするんだこの量。今このビルにいる職員全員呼ぶか? なあ帝? お前の不始末だぞ」
「正直やり過ぎたと思ってる。でも大丈夫だろ。胃袋ブラックホールがいるんだから」
「だからって流石にこの量は……」
無理だろ? という目を向けられて考える。考えるっていうのは、食べられるかではなく、食べた結果何かしらの不都合がないか。
まあ、世界レベルの大食いならこれくらい大丈夫だろうと思い、力強く頷いた。
「いけるでしょ」
唯一全く心配していなかったエクレールII世さんも、当たり前のように太鼓判を押してくれた。
期待に応えるように、私も寿司ピザオードブル盛り合わせラーメンと無差別に食べていく。途中からショコラさんなんて、私の事をわれないシャボン玉でも扱うように不思議そうな目をして口の中のその先を覗こうとしてきた。
「一体どこから消えてるんダ?」
それは案外真理かもしれない。私が食べた物が何処かに消えるとして、それは果たして胃に到達した瞬間なのか、それとも食道あたりで消えているのか。
「理に反している……不可思議ダ! 考えてもわかんないことは、考えない! ねーロイドあーんしていい? いつか食べ切れないほどの食べ物を、誰かに分け与えるのがエガヲの夢だった……はい、あーん!」
ショコラさんの手も借りて、テーブルの上にあった異文化満漢全席は瞬く間に数を減らしていった。
心配していた面々も関心を通り越して呆れ、各々の会話に戻る。私もマイペースにホールケーキ丸ひとつ食していたところへ、カイザーさんがやってきた。
「マジ助かったぜ。出前なんてとったことねえから加減を間違えたんだ。お前が食べてくれなきゃアンズの野郎からもう一発頭にもらうとこだった」
「全然大丈夫ですよ。まだまだ食べられます」
「もうそこに関しては突っ込まねえよ。ってか、そうだ。もう一つあんたに話したい事があったんだ。いつでもいいんだけどよ、今度俺とゲームしないか? もちろん配信で」
「何のゲームですか?」
「FPS。ファーストパーソン・シューティングゲームだよ。要は銃撃って敵を倒す。経験あるか?」
「うーん、ないですね」
この体になってからは、とは言わない。私自身いったいどこまで自分にゲーム知識があるかは分からなかった。間違いなく、配管工おじさんとかピンクの悪魔とかは分かるんだけど。
「多分だけどあんたはハマりそうなんだよな。今度ばーちゃるの間で大きな大会を開こうって計画も立てられてるしよ。なんなら俺はあんたを俺らのメンバーに推薦しようと思ってるんだ。まあ深い事は考えずに、今度俺とゲームしないかって話。どうだ?」
「うーん……いいと思いますよ。一応あとでマネージャーさんと相談しておきますけど」
「よし、じゃあ話は決まったな」
橘さん的には私が誰かとコラボをするのは大歓迎みたいだったし、きっと大丈夫だとは思っている。
と、その時まで私の口の中に、工場の流れ作業の如き動きで何かしらの料理を放り込んでいたショコラさんが、突然カイザーさんと私との間に割って入る。
「エガヲも! ロイドとやるんダ! なー?」
「お前ゲーム苦手じゃん」
「ゲームはしない! 酔うから! なーロイド、一緒に言葉のお勉強しよーよ。ロイドとたくさんの国の言葉でお話したい。ダメか?」
「断るはずもなくっ……!」
あまりの可愛さに気を失いそうになりながら、橘さんに確認するまでもなくOKを出した。
一気にモテ期きちゃったかなぁと喜んでいると、ふと視線にエリザベスさんが入る。エリザベスさんはジーっと私の事を見ていた。別に悪い事してないのに、この居心地の悪さはなんでしょう。
「……もちろん私は、エリザベスさんとも今度また配信を一緒にしたいと思ってましたよ?」
「別に
そうは言うエリザベスさんでしたが、心なしか弾んでいたように見えるのは、私の勘違いだったのだろうか。
勘違いじゃなければいいなと思った。
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