第72話:防衛と拷問

「頑張れ、頑張るんだ、もう直ぐ救世主様の護られる街につく」

「「「「「はい」」」」」


 各地の分身や使い魔からひっきりなしに連絡が入る。

 俺の作り出した包囲網を突破したモンスターが、大陸中の街や村を襲っている。

 各国や各領主の軍が戦っているが、はかばかしい戦果はない。

 それどころか人族の下劣さを証明して、神が正しい事を証明するような事をする。


 この世界の神が堪忍袋の緒を切らして見捨てるような人族だ。

 モンスター討伐に派遣されたのに、やる事は街や村の略奪だ。

 モンスターに出会えば逃げ、人に出会えば奪い犯し殺す。

 人族の下劣さを体現しているのが軍そのものだった。


 だから多くの民が頼ったのは俺の分身と使い魔だ。

 俺の分身と使い魔は、天罰を下すべき領都や都市にいた。

 代表的な悪人が、領主や大商人といった権力者だったからだ。

 中には村の村長などもいたが、そんな奴には必ず背後に大物がいた。

 だから天罰後の領都や都市は比較的平和で住み易くなっていた。

 結局俺はそのような領都や都市を拠点に防衛線を敷いたのだ。


 莫大な数の分身と使い魔を放っていたとはいえ、大陸中の小さな村まで全てを護る事はできない。

 避難民を収容できる余力のある領都や都市を優先して、中小の村人はそこに逃げて来てもらうしかなかった。

 だがそれでは一年後に食糧難に陥るのは目に見えていた。


 魔物からの恐怖に加えて食糧不足の不安が蔓延すると、人間など簡単にパニックに陥ってしまう。

 自分が生き延びるため、大切な人を護るため、人は簡単に罪を犯す。

 富める者を襲い略奪する誘惑に負けてしまう。

 略奪を目的とする者が他にもいて、徒党を組むことができれば直ぐに暴徒と化す。


 そんな下劣な人間を統率して理性を保たせるためには、偶像が必要だった。

 勇者英雄と呼ぶ事のできる偶像が必要だった。

 俺は分身ドッペルゲンガーに英雄に相応し姿形をとらせて民を指揮させた。

 自警団義勇軍を設立させて、暴徒になりそうな人間を勇士にしようとした。


 ある程度は成功したが、完全に成功したとはいえなかった。

 本質が下劣極まりない人族は、どれほど諭し導いても善良になれない者がいる。

 他人の心身を傷つけ、他人の大切なモノを奪い踏み躙ることに愉悦を覚える者が、どうしてもいるのだ。

 

 そんな連中が俺の派遣した分身や使い魔の目を盗んで略奪する。

 単に略奪するだけでなく、犯し殺し火を放つ。

 神が人族を滅ぼそうとする気持ちが理解できてしまうほどだ。

 俺もつい最近までは神に近い考えをしていた。


 ミュンが言わなければ、身近な人間以外見殺しにしていただろう。

 だがミュンにあのように言われたら仕方がない。

 助けられる人間は全て助ける。

 人族の為ではなくミュンの為ならやれる。


 だが罪を犯した下劣な連中は別だ。

 見せしめのために公開で激烈な拷問を行う。

 簡単に、楽に殺したりはしない。

 絶対に同じ目にはあいたくないと、全ての人が心に刻むくらいの拷問を繰り返す。

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