第67話:婚約指輪
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます。
この御恩は一生忘れません、命懸けで働かせていただきます」
最初の戦士には、魔獣素材でできた魔剣を与えた。
並の鍛造剣なら、剣を切り落とす事すらできる魔剣だ。
亜竜の牙や爪のような特別な素材ではないが、上位魔猪の牙を刃金にした、トップレベルの冒険者しか持っていない剣だ。
これを使えば、普通の剣では打ち合うことができない。
少々の実力差では埋められない武器レベル差になる。
最低でも二階級、上手くやれば三階級差の戦士にも勝てる。
それは魔獣を相手にしても同じで、今までよりも稼げる。
ロートルから稼げる現役冒険者に評価が変わるだろう。
「次は私に稽古をつけてください」
その後は魔術士や治癒術師、もちろん他の戦士もだが、次々と厳しい鍛錬に挑んできたが、全員結構腕を上げていた。
ドッペルゲンガーのやっていた訓練に効果があった証拠だ。
俺はドッペルゲンガーにかけていた制限をなくして、格段に実力が伸びるコツを指導して、一回で一気に実力を上昇させた。
これは冒険者だけでなく、孤児達も同じだった。
冒険者希望の孤児だけでなく、職人希望の孤児にもコツを教えた。
魔力がある職人希望の孤児には、魔力付与の武器や道具が作れるコツを教えた。
魔力が全くない職人希望の孤児にも、魔石や魔晶石を利用することで、魔力付与の武器や道具が作れるコツを教えた。
「ミュン、これを受け取ってくれないかな。
これが俺の想いなんだ、どうか受け取って欲しい」
前世でもプロポーズした事のなかった俺は、あまりの緊張と不安で心臓が早鐘のように激しく打ち、それこそ口から心臓が飛び出しそうだった。
あれだけ平然と人殺しをしてきた俺が、ガタガタと震えているのだから、自分自身を嘲笑いたくなる。
これだけ震えるのは、自分をよく見せたいという欲があるからだな。
「あの、こんな高価な物をいただいていいのでしょうか」
ミュンの返事を聞いて、俺は自分の失敗にようやく気がついた。
この世界には婚約指輪も結婚指輪もなかったのだ。
俺が渡した指輪に特別な意味があることに気がついてもらえない。
俺はその場にしゃがみこんで頭を抱えたくなった。
だがそんな恥ずかしい真似などできないので、必死でこらえた。
「ああ、全然かまわないぞ。
今まで頑張ってくれたことへのお礼だから」
俺は本当にヘタレなのだと思った。
ここで「好きです、結婚してください」と言えないのだから。
こんな反省をするくらいなら、今からでも根性を入れて告白するか。
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