第66話:お土産

 ミュンにはお土産を渡す心算だったが、孤児達には渡せない。

 身代わりのドッペルゲンガーがいたから、お土産として配ることができない。

 それは孤児達だけでなく冒険者達も同じだ。

 孤児院を護らせるために集めた駆け出しやロートルの冒険者達。


 決して善男善女ではないが、俺という重しがあれば悪事ができない奴ら。

 コボルト族やオーク族ほど誇り高い連中じゃない。

 だが、この世界の多くの人族に比べればとても善良な連中だ。

 無駄死にさせたくない連中だ。

 だからこそドッペルゲンガーに厳しく訓練させていたのだ。


「さて、今日からは特別厳しい鍛錬をしてもらうから覚悟しろ。

 その代わりと言っては何だが、鍛錬をやり終えて強くなった者には褒美をやる。

 だから性根を入れてかかってこい」


 俺はミュンにお土産を渡したい一心で、色々と考えてみた。

 当然だが、ミュンだけにあげようとしても受け取ってもらえない。

 ミュンと孤児だけに与えると、冒険者達もいい気がしないだろう。

 人間の嫉妬心ほど厄介な物はない。

 集団を維持するには、何事にも正当な理由か公平さが必要になる。


 今この孤児院と冒険者クランを投げだすわけにはいかない。

 孤児達が一人前になるまで維持しなければ、ミュンが哀しむ。

 ミュンと二人で穏やかに暮らしたい気持ちになっているが、それは許されない。

 助けた子を途中で投げ出すのは無責任すぎる。

 それにそんな事をミュンが許してくれるわけがない。

 何よりミュンに軽蔑されたくない。


「俺から頼む、ブルーノさん。

 歳と共にどうしても衰えてきた。

 褒美をもらって衰えを補いたいのだ」


 ロートルの戦士が最初に挑んできた。

 確かに体力勝負の戦士は、どうしても歳と共に弱くなってしまう。

 多少でも魔力があれば身体強化に使うことができるが、こいつには魔力がない。

 それでも冒険者を続けたいのなら、魔法陣を組み込んだ武器を得るか、魔力を付与された武器を手に入れるしかない。


 だがその二つはべらぼうに高価なのだ。

 今のこの男では絶対に手に入れられない高さだ。

 魔術武器や魔力武器が無理なら、次善は名剣と呼ばれる武器になる。

 名人と呼ばれた刀工が鍛えた剣か、特殊な鋼材を使った剣だ。

 だがこれもこの男には高嶺の花だろう。


 この男の実力でも運次第で手に入れることができるのは、魔獣素材の魔剣だ。

 しかしこの男の実力では、魔境で生き延びるのは難しい。

 だがダンジョンなら、かなり確率は低いがドロップする可能性はゼロではない。

 だがそれよりは、俺から褒美で手に入れる方が確実だ。


 だから最初に俺におねだりしたんだ。

 無駄に年はとっていないという事だな。

 だがこのおねだりは俺に好都合だ。

 ミュンに特別なお土産を与えるのに、最初にお願いを聞くという方法ができた。

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