第6章
第65話:帰還
「ブルーノさんお帰りなさい、御無事だと信じていました」
ミュンが目に一杯の涙を浮かべて出迎えてくれた。
可愛い顔をクシャクシャにして喜んでくれている。
胸に懐かしい痛みが生み出されて戸惑ってしまった。
この世界に転生してから数十年、誰も愛する事無く生きてきた。
独善的な正義感に囚われて、天罰を下すだけの人生だった。
そんな人生に意味があるのか、迷いが生まれてしまった。
「ああ、ありがとう、でもよく見分けがついたね。
代わりに残しておいたドッペルゲンガーと違うところなどないだろうに」
誰にも分からないように、孤児院に残したドッペルゲンガーは俺と瓜二つの姿にしているから、普通は俺自身と入れ替わっても分からないはずなのだ。
「そんな事はありません、ブルーノさんとは全然違います。
見分けがつかない訳がありませんよ」
胸にどうしようもない喜びが湧いてくる。
少しでも自制心を緩めると、ミュンを抱きしめてしまうだろう。
助けた恩を押し付けて、愛を強要してはいけない。
そう強く自分に言い聞かせないと、欲望に走ってしまいそうだ。
こんな気持ち、この世界に転生してから初めてだ。
「そう言ってくれるととてもうれしいよ。
色々とお土産があるんだ、好きなモノを選んでくれ」
この世界に転生してから女性にプレゼントを渡すのは初めてだ。
転生してから性欲がなかったわけではないから、女性は抱いている。
だが相手は全部プロで、欲望を満たすだけの割り切った関係だ。
正当な代価は支払うが、プレゼントなど考えもしなかった。
数十年ぶりに女性にプレゼントを渡すせいか、胸がドキドキする。
「ありがとうございます、とてもうれしいです」
顔を上気させて本気で喜んでくれている。
そんな姿を見ると自分までうれしくなってくる。
ミュンのために土を厳選して高圧高熱で溶かして宝石を創り出した。
オパール、黒曜石、ラピスラズリ、水晶、柘榴石、ダイヤモンドなどだ。
自作の物ばかりではいけない気がして、代価を支払ってこの世界で売られている化粧品や小物も買ってある。
「まあ、こんな高価な物を私だけがもらうわけにはいきません。
孤児院のための運用資金に回してください。
この化粧品と小物も、年頃の孤児が羨ましがってしまいます。
女の子達と交代で身に着けていいですか」
嬉しいような悲しいような、ミュンらしい返事をしてくれる。
さっき素直に喜んでくれたけれど、最初から孤児達と分ける心算だったな。
しかたがない、今回手に入れた素材を売れば、莫大な金になる。
それを使って孤児達と公平に分けられる化粧品と小物を買おう。
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