第61話:オーク一

 俺は運がいいのか悪いのか、直ぐには判断に苦しむ状況になった。

 コボルトの大集落から離れようと、コボルト族でも狩るのが厳しそうな亜竜だけを狩りながら、大魔境に奥に向かっていたのだ。

 最初は結構な数の巨大亜竜を狩ることができて、満足のできる状況だった。

 だが翌日になって、明らかに人型魔族の大集落だと思われる反応に気がついた。


 狩りをしながらの翌日とは言っても、俺が全力で駆けた場合の翌日だ。

 健脚のコボルト族が全力で駆けたとしても、コボルト族の大集落から十日以上離れた場所にある大集落だ。

 巨大強大な亜竜が、獲物を狙って徘徊している大魔境で全力十日の場所。

 両大集落ともに、軍を動員していては絶対に遭遇する事は不可能だろう。

 飛び抜けた能力がある個人なら行き来できるかもしれないが、成功させるには運の要素が大きい事は、誰の目にも明らかだ。


 まあ、二つの部族が交流してもしなくても俺には全く関係ない。

 だが、無視したくても無視できないのが、先のコボルト族大集落で蔓延していた人族による疫病の流行だ。

 この大集落でも人間発の疫病が大流行している可能性が高い。

 それを無視して行くことは、俺の不完全な良心が許してくれない。

 大きなため息をつきながら、不完全な良心に従って大集落を訪ねることにした。


「すまない、旅の者なのだが、一夜の宿を頼めないか」


 驚いたことに、この大集落はオーク族もモノだった。

 この世界のオーク族は、前世のラノベやアニメの大半が設定しているような、不潔で性悪で醜くく太っていて性欲が強い存在ではない。

 だから人間の女性を無差別に襲い妊娠させるような下劣な存在ではない。

 奇麗好きで正義感が強く家族思いで、均整がとれた美しい筋肉質の強靭な身体をした、とても誇り高く強力な人型魔族なのだ。

 その戦闘力は一対一ならコボルト族にも勝るのだ。


 俺の不完全な良心は、オークが宿泊を拒絶してくれることを望んでいた。

 困った旅人を、敵対している人族だからと見捨ててくれれば、不完全な良心に対して助けない事の言い訳になり、疫病被害を無視して先を急ぐことができるのだ。

 自分でも嫌になるくらい捻じ曲がった性格をしている。

 だが、大集落の門番は俺の望まない誇り高い返事を寄こしてきやがった。


「よく聞け人族の旅人よ。

 困っているなら泊めてやりたいのだが、残念だが不可能なのだ。

 今この集落には疫病が蔓延しているのだ。

 旅人に疫病を移してはいけないから、直ぐにここから立ち去り遠くに行け。

 その方が少しでも助かる確率が高くなる。

 悪い事は言わん、どのような大望があろうと、しばらくは大魔境に入るな」

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