第62話:オーク二

「気高き門番殿、卑しい人間の言葉を信じてくれるのなら、この門を開けてくれ。

 俺はこの大集落で流行っている疫病の薬を持っている。

 この疫病は、下劣卑怯な人間がコボルト族を狩るために流行らせたモノだ。

 偶然コボルト族の大集落に泊まり薬を売った。

 人族の誇りを取り戻すために、元凶の人間を捕まえてコボルト族に引き渡した。

 だから犯人をオーク族の引き渡す事はできないが、薬は売れる」


 門番をしていたオーク族は黙って最後まで俺の話を聞いていた。

 大切な門を護るオーク族の門番は一人ではなく、見える所にいる者だけで八人はいたが、全員が一人のオークにチラチラと視線を送っている。

 彼がこの門を守備する者達の責任者なのだろう。

 単なる門というよりは大集落を護る城門だ、よほどの戦士なのだろう。

 

「俺はその言葉を信じたいが、一存で決めることができん。

 だがそのまま門の外で待たせては、魔獣に襲われる可能性が高い。

 ここにまで一人で辿り着ける人間ならば、少々の魔獣に負けるとは思わないが、門の外に待たせるのはあまりに非礼だ。

 ここで流行っている疫病を畏れないというのなら、中に入って待ってくれ。

 その間に大族長に今の話を伝えて判断を仰ぐ」


 城門の責任者は感心するくらい誇り高い言動をする。

 このような戦士と争うには俺の本意ではない。

 できれば対等の関係で交易し、魔宝石や魔晶石、魔石や素材を手に入れたい。

 オーク族との交易品は回復薬や治療薬でいいだろう。


 大魔境には回復薬や治療薬の原料になる薬草や素材が沢山ある。

 オーク族なら自分で精製調合してある程度の回復薬や治療薬を持っているはずだが、俺が作り出す回復薬や治療薬の方が効果が高いと思う。

 それを使う事で、今まで以上の獲物を狩る事ができるはずだ。

 しかも死傷者を遥かに少なくしたうえでだ。


「まあ、心配するな、この者は俺が見張る」


 城門の責任者が配下にきつく言い聞かせていた。

 恐らく俺から見えていない者が、城門の責任者に批判的な視線を送ったのだろう。

 自分自身で俺を見張るから大丈夫だと言い聞かせていた。

 それだけで批判的な視線を送って来た仲間の口を封じる事ができるのだから、よほど信用信頼されているのだろう。


 俺は重々しく開かれた城門を堂々とした態度で通過して大集落に入った。

 誇り高い戦士であるオーク族に憶病者と思われたくないからな。

 わずかでも怯懦に見える態度をとることは恥だ。

 彼らから見れば、表に見える姿形は卑怯卑劣な人間なのだ。

 内部にある精強な力を見抜いてくれる者ばかりであればいいが、まだ未熟なオークもいるかもしれないから、わざと内部の魔力を漏出させよう。

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