第59話:コボルト十二

「ジェイコブ殿、仇をこうして連れて来てくれた事、心から感謝する」


 俺の名前は人族の名前とあまり変わらないジェイコブに決まったが、そんな事はどうでもいい事だ。

 今回疫病を大魔境に流行らせた人間を誘拐して、コボルト族が復讐できるように連れてきた俺に、ブラウンロ大族長が深々と頭を下げる。

 娘のビクトリアや側近達も一緒に深々と頭を下げている。

 あまり大仰な礼を取られるのは恥ずかしいので、適度な所で切り上げて欲しい。

 だから話をはぐらかすことにしたのだ。


「父上、息子に頭を下げ過ぎるのは大族長としておかしいですよ。

 ビクトリアも初めて会うとはいえ、遠慮されると兄として哀しい。

 もう少し打ち解けた態度をとってくれないかな。

 一緒に治療に携わったアイリスが手本を示してくれればうれしいな」


 俺に無茶振りにアイリスは一瞬目を見張っていたが、直ぐに決意の籠った表情になってくれて、少し硬いが今まで通り話しかけて来てくれた。


「そう、だな、一緒に可哀想な患者達を世話した仲だ。

 いつまでも堅苦しい敬語というのは逆に恩人に対して失礼だ。

 まして継承権はないといっても大族長の息子さんなんだから、普通に話そう。

 その方がこれからもいい関係が続けられるだろう」


 アイリスは本当に優秀な側近のようで、緊張しながらも釘を刺してきた。

 アイリスから見て、俺は警戒を要する相手なのだ。

 大族長の息子となれば、しかも貴種だと思われる金色種なら、この大部族の後継者として君臨する事も可能だ。

 まして俺は疫病を治す治療薬をもたらした恩人扱いになっている。

 後継者ビクトリアの側近なら絶対に警戒すべき相手だ。


「そうだな、他の集落の住人である俺が、あまり大きな顔をするわけにはいかんな。

 大部族を纏める大族長候補に軽々しく対立候補を作ってしまうと、大部族内で無用の争いを起こしてしまう可能性があるからな」


 そう言い切った俺に、ブラウンロ大族長が感謝の籠った声色で話しかける。


「そうだな、受けた恩と返すべきモノは、厳格に決めておかねばならん。

 儂では肉親の情で甘くなり、受けた恩にそぐわない莫大な量になってしまうかもしれないから、全部アイリスに任せる。

 とはいえ一対一で決めさせるのは責任が重すぎるし、儂も無責任すぎる。

 今この場で御礼に支払う魔晶石と魔石の量を決めてもらおう」


 ブラウンロ大族長の提案には俺も否やはない。

 だから側近も含めて御礼の魔晶石と魔石の量を話し合った。

 もちろん支払いが遅れる分の金利も決めた。

 御礼に相応しい魔晶石と魔石の量は、毎月五パーセントとした。

 魔晶石一〇〇〇個に対して年五〇個の魔晶石を支払ってもらう。

 そんなこんなで処罰すべき人間の事を忘れ放置してしまっていた。

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