第58話:コボルド十一

 集まっていたコボルト族の全員が何も言わなくなった。

 何も言わないばかりか、恥じ入るように俺から視線を外す。

 コボルト族にとって誇りがどれほど大切なのか少しわかった気がする。

 だから彼らの罪悪感を少し軽くしてやることにした。

 俺がやったわけではないが、人族のやった事の方が恥知らずだからだ。

 まあ、あくまでも俺の不完全な良心を基準にしての話だけどね。


「それはこれから時間をかけて支払ってくれればいい。

 少しは利息をもらうが、法外な金利をつける気はない。

 コボルト族なら全長平均二メートル体重三十キロの亜竜くらい狩れるだろ。

 いや、別に魔晶石と魔石が手に入るのなら、何を狩ってくれても構わない。

 食糧を狩るついでに、魔晶石と魔石を手に入れてくれ。

 不要な殺生を好まないというのなら、魔獣肉や魔蟲を保存しておく汎用魔法袋を貸すから、無駄な殺生にならないようにできる」


「いや、恩人にそこまでしてもらっては申し訳ない。

 こいつらの犯した事に対する罰として、無駄な殺生をしたという汚名を着せる。

 そうでなければ恩人に対して申し訳が立たん。

 ああ、俺の庶子にするのなら、いつまでも恩人と呼んではいかんな。

 ちゃんとした名前が必要なのだが、何と呼ばしてもらえばいいかな」


 大族長のブラウンロはそう言うが、恨みを買うのは嫌だ。

 別にこの程度のコボルド達に恨まれたからといって実害はないのだが、恨まれているという気持ちになるのが嫌だ。

 相手が真正の悪人なら恨まれようが呪ってこようが気にしないのだが、本質が善良で誇りを持った相手に恨まれるのは気分が悪いのだ。


「まあ、まあ、まあ、まあ、ブラウンロ大族長。

 俺を恩人と言ってくれるのなら、彼らから恨まれるような事はしてくれるな。

 悪人に恨まれるのは平気だが、誇り高い戦士に恨まれるのは嫌なのだよ。

 ここはコボルト族のしきたりを護る範囲の罰にしてもらいたい。

 だからこの魔法袋を受け取って、これを使って食糧を保管してくれ。

 それと名前だが、俺にはコボルト族に相応しい名前が分からない。

 ブラウンロ大族長の庶子に相応しい名前にしてくれ」


「分かりました、恩人殿がそこまで行ってくださるのなら、彼らの犯した罪を許させていただきます、そして愚か者の父親として、心からお礼申し上げる」


 大族長のブラウンロが深々と頭を下げるのを見て、娘のビクトリアも側近衆も慌てて頭を下げてきたが、彼らの感謝に偽りがないのがよく分かった。

 誇り高いコボルト族がここまで感謝してくれているのなら、まず大丈夫だろう。

 問題はどんな名前をつけられるかだが……

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