第57話:コボルト十
「今から俺がやる事は、人族を裏切る行為になる。
だから今から俺の事をコボルト族として遇してもらいたい。
姿形は幻覚魔法でコボルト族に見せかけるから、何も知らないコボルト族や人族には見分けがつけられない。
大族長達が認めて黙認してくれるのなら、今回大魔境に人族の疫病を流行らせた極悪人を引き渡す、どうかな」
俺はコボルト族に極悪人を引き渡す前に、口止めをすることにした。
顔形を変えているから、俺がミュンや孤児とかかわりがあるとは誰も思わないだろうが、油断は大敵だ。
誰が見抜かなくても、ミュンが察してしまうかもしれない。
ミュンに限って、コボルト族を狩るために疫病を流行らせるような極悪非道なやり方を認めるとは思わないのだが、異世界には異世界の常識や倫理観がある。
それが俺の倫理観と一致しない事など嫌というほど理解している。
だから細心の注意を払って、今後は人間ではなくコボルト族として振舞う。
その事をコボルト族の大族長ブラウンロに認めてもらうことにしたのだ。
認めなければ別にそれでも構わない、いや、その方が俺の良心が痛まない。
俺の不完全な良心に対して、極悪人間を許す理由にすることができる。
俺の希望と安全をコボルト族が無視するようなら、復讐に協力する必要はない。
薬を与えて命を助けてやるだけで、俺の不完全な良心は満足する。
極悪人共は普通の病気のように見える経穴を突いて殺せばいい。
「認めましょう、今回の件の犯人を引き渡してくださるのなら、どんな条件でも飲ませていただきます。
ただ幻覚で見せかける姿形は、金色のコボルトにしてください。
貴男様の出自は、私が若い頃に設けた長男という事にします。
私も若い頃は修行の旅に出ていたので、他所に子供がいてもおかしくはない」
「「「「「大族長」」」」」
「黙れ、コボルト族の大恩人がコボルトの姿をしたいと申されておられるのだ。
最高の待遇でお迎えするのが当然だ、違うか。
ましてお前達は、礼も払えないのに詐欺のようにして貴重な薬を騙し取っているのだぞ、その詫びとお礼を済ませてのいないくせに、恥知らずな事を申すな。
コボルト族の面汚しが」
大族長ブラウンロが、娘のビクトリア以下の側近連中を本気で叱りつけた。
ビクトリアが魔晶石も魔石も全くないのに、薬の代価として俺に払うと約束した事に本気で怒っているのだ。
この世界の交渉術と考えればそれほどの悪事ではないし、そもそも疫病を持ち込んだのは人族だから、ビクトリアや側近連中の気持ちは分かる。
だがここで余計な事を口にすると話がややこしくなるので、事の成り行きに任せる方がいいだろう。
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