第54話:コボルト七

 うだうだ考えている余裕も時間もなかった。

 コボルト族の家族愛部族愛は、人間など足元にも及ばない。

 使えるモノは全て使って、疫病に倒れた者を助けようとしていた。

 俺の案内を薬師と看護師が務めていたのは、回復術師や呪術士などの治療のできる者は、不眠不休で患者を延命していたからだった。


 これでは金色のコボルトが俺と約束した事は守られそうにない。

 この状況では、回復術師や呪術士の魔力を回復させるために、魔晶石と魔石が全部使われている事は明らかだった。

 だが金色のコボルトを約束違反で咎める気はなかった。

 金色のコボルトは最初から村にあるだけのモノと言っていたからだ。

 それで売ってくれる治療薬全部とも言っていた。

 あれで意外と交渉上手なのかもしれないな。


「この薬とこの薬を混ぜたモノを作って、下血している患者の方に飲ませてくれ。

 この薬とこの薬を混ぜたモノは、黒い斑点が浮かんでいる方に飲ませてくれ。

 もう魔力も体力の気力も限界だろう、時間がない慌てず急いで間違えないように」


「「「「「はい」」」」」


 薬師と看護師が一瞬戸惑った表情を浮かべたが、直ぐに深い感謝の気持ちが籠った眼になり、決意の籠った表情を浮かべてうなずいた。


「分かった」

「ありがとう」


 薬師と看護師がそれぞれ答えた。


「だが量はどうなんだ、どのくらいの配分にするのだ、誤差はどれくらいゆるされるんだ、間違った時の副作用はどれくらいだ」


 流石薬師だけあって的確な質問だ。

 普通の薬なら量も配分の絶妙な匙加減が必要になる。

 匙加減を間違った場合の副作用は、時に命を奪うほど激烈なこともある。

 だがこの薬は、俺がこの世界の仕組みを利用して創り出したものだ。

 とても強い想いと魔力さえあれば、全てを現実にできるというご都合主義の仕組みを利用して、副作用のない混ぜた薬の数だけ効果が現れるという夢の薬。


「量はこの薬匙一杯分ずつ、誤差は倍でなければいいから。

 副作用は一切ないが、その分経過観察が必要になる。

 量が足らなければ翌日の様子で再度投薬が必要になる」


「その言い方だと、たった一度で治るのが普通に聞こえるのだが」


「ああ、そうだ、普通は一回の投薬で治る霊薬だ。

 だが今回は人間が大魔境の人型魔族を滅ぼそうとして流行らせた疫病だ。

 魔術で疫病を変化させている可能性がある。

 ずっと看病してきて疲れているだろうが、経過観察が必要になる。

 その結果次第では、新たな薬を創りださないといけない」


「ふん、最初からずっと看病する心算だったんだ、明日の経過観察くらいどうってことはない、ないが、少しの効果もなかったらただじゃおかないからな」


 そう言いながら、感謝の表情をしてやがる。

 

「ああ、いいぜ、その薬に全く効果がなかったら、このエリクサーをくれてやるよ」


 俺はある貴族に天罰を下した時に手に入れたエリクサーを見せてやった。

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