第53話:コボルド六

 俺は真紅コボルトのアイリスに案内され、コボルト薬師やコボルト看護師と話し合ったが、彼らに胡散臭い目で見られてしまった。

 根強い人間不信が伺えたが、まあ、こんなもんだろう。

 人間の猟師や冒険者が、数多く大魔境に狩りに入っているのだ。

 その時に少なくないコボルトが獲物として狩られている。

 最悪の場合は生け捕りにされ、誇り高いコボルトが奴隷にされてしまうのだ。


「まあ俺の事は、薬を得るために利用するだけの存在だと思ってくれればいい。

 アンタから見れば、この疫病を広めた元凶は人間だからな。

 同じ人間の俺を敵視するのは当然だろう。

 まして最前線で看護治療している身としては、憎しみを持って当然だ。

 だが今だけは、薬を手に入れるためにその気持ちを飲み込んでくれ」


 俺は変に同情した態度も示さず、冷たい感じで話しかけた。

 俺の不完全な良心は痛みを感じているが、コボルトが敵意を向けて襲ってきたら、治療薬を渡すことなくここを出て行くことだろう。

 その程度にしか同情していない事は、自分自身で分かっている。

 だからこそ不完全な良心のだが、自分からコボルトが暴発するように仕向けるほど悪人ではない、コボルトを暴発させにように立ち振る舞うくらいの優しさはある。


 その立ち振る舞いの影響か、コボルトに襲われる事なく一軒の家に収容されている疫病患者を診たが、ちょっとおかしな状況だった。

 明らかに症状の違う病人がいるのだ。

 それを確認するために、アイリスに事情を話して他の建物、特に多くの病人が収容されている病棟を見せてもらうことにした。

 だが、確認するまでもなく、その事にはコボルト達も気がついていたようだ。


「アンタも気がついたか、口だけの素人でもなければ、金儲けのために偽薬を売りつける気の悪人でもないようだな。

 そうだ、同時に二つの致死性疫病が流行するなんて、どう考えてもおかしい」


 コボルド薬師がそう断言したが、俺も同じ思いだった。

 確かに大量の人間が大魔境入り込むことで、今まで大魔境になかった人間由来の疫病が大魔境で流行する事は考えられる。

 だがそれが二つも同時に流行するのは、確率的に考えておかし過ぎる。


 俺には何者かが悪意を持って大魔境に疫病を流行させようとしているとしか思えないが、それはコボルト薬師やコボルト看護師も同じ思いだったようだ。

 彼らの話や言葉の端々から、翻訳魔術から受ける感情部分から、彼らがこの疫病を人間が仕掛けた謀略だと感じている事が分かる。


 そしてその考えは俺も同じだった。

 もし本当にこの疫病が人間の仕掛けたモノなら、人型魔族全てを滅ぼすために人間がやった謀略ならば、俺は絶対に許せないだろう。

 直ぐに犯人を探し出したが、まずは疫病で苦しんでいるモノを全力で助けなければならない。

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