第52話:コボルト五
金色のコボルトは護衛の諫言を受けて一気に不機嫌になった。
彼女とすれば、指導者一族として疫病患者にも親しく接したいのだろう。
だがそれは自分の立場と責任を弁えない悪手だ。
彼女が疫病に感染してしまったら、立派なリーダーである父親までが疫病が感染してしまい、取り返しのつかない結果になってしまう可能性がある。
「今回に関しては護衛の真紅コボルトの諫言が正しい。
もし貴女から父親に疫病がうつったらどうする心算なんだ。
このコボルト族危急存亡の秋に、父親が倒れるような危険を、自分の虚栄心満たすために犯すというなら、それはコボルト全体の敵だぞ。
それを分かっていないのなら大馬鹿野郎だし、知っていてやっているのなら、コボルトの民に殺されても当然の悪業だぞ」
「おい、それは幾らなんでも言い過ぎだ」
俺は立派な族長に率いられている誇り高いコボルドが、愚かな娘のせいで滅ぶかもしれない事が許せなくて、同時にこの娘なら俺の厳しい言葉も正しく受け止めてくれると信じて、言葉を飾ることなく忠告した。
それがあまりにも厳し過ぎると思ったのだろう、さっき諫言していた真紅コボルトが文句を口にしたが、その瞳には感謝の気持ちも見えた。
問題は真紅コボルトと俺の言葉を金色のコボルト娘がどう受け止めるかだが。
「いいのだ、人間の薬師の言う通りだ、私が愚かだったのだ。
アイリスの諫言に直ぐに返事をできなかった私に、人間の薬師殿が族長の娘である私を怒らせる覚悟で厳しい忠告をしてくれたのだ。
その覚悟を見て見ぬフリして、自分の虚栄心を満たすほど私は卑怯ではない。
後の事は専門の者に任せて、私は身体を奇麗にして族長にあってくる。
ちゃんと薬師殿の事を報告しなければいけないからな」
真紅コボルトはアイリスという名前のようで、金色コボルトの言葉を受けて、深々と頭を下げて礼を取っていた。
いや、アイリスではなく、今回の件で何も言わなかった他に真紅コボルトと白銀コボルトも、恥を感じている表情を見せながら深々と頭を下げた。
コボルト族である自分達が、一族を滅ぼしかねない重大な事を諫言しなかった事に、心から恥じている様子だった。
「後の事は私にお任せください。
この人間を薬師と看護師に無事に会わせて、疫病を治療できる薬を手に入れてみせますから、その報告を族長にしてください。
お前達は自分達の事を見つめ直して、本当のコボルトの誇りをよく考えろ。
大きな声で脅したり力を誇示したりするのは、本当に勇気でも誇りでもない。
どれほど危険な状況に陥っても、正義と仁義を貫くのが本当の勇気だ。
縁も所縁もない我が一族のために、一族全体を敵に回す覚悟で、厳しい忠告を口にできる人間に劣るような行動を、絶対にとるんじゃない」
アイリスという名の真紅コボルト、俺をだしに使って他の側近や護衛を教育しやがった、強かな女戦士だな。
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