第49話:コボルト二
「こいつの所有権はあんたにくれてやるよ。
人間ごときに亜竜を狩れるというのなら、実際に狩って見せてみな」
人間の俺に偉そうな口を利かれて誇りを傷つけられたのだろう。
翻訳魔術からはとても悔しそうな感情が伝わってくる。
だが同時に、藁にも縋る思いでいる事も伝わってきた。
主人である金色のコボルトを、なんとしても助けたいと思っているのだろう。
それは俺に返事をした白銀のコボルトからだけでなく、他の白銀コボルトからもも、真紅のコボルトからも伝わって来た。
「ありがとう、だったら成竜だけ狩らせてもらって、若竜と幼竜は追い払うよ。
どうせ狩るのなら、大きく育ってからの方がいいからね」
俺の言葉を聞いたコボルト達は、驚きの余り言葉を失っている。
まあ、それは当然の反応だろう。
桁外れに強い古代竜のような純血種竜や、ブレス攻撃ができる属性竜ほどではないにしても、亜竜種も一般的な人族や魔族に勝てるような存在ではない。
鋭い牙と驚異的な咬合力で喰い殺されるだけではなく、前腕や尻尾の一撃を受けただけで粉々にされてしまう。
だがそのような強力な一撃であろうと、受けなければ全く無力だ。
コボルト達の敏捷性でもギリギリ逃げ切っていたのだから、俺ならば楽々と攻撃を避けるどころか、ティラノサウルスもどきの群れを翻弄する事すら可能だ。
まずは二頭の成体ティラノサウルスもどきを瞬殺する。
できるだけ素材を損なわないように、圧縮した空気を鎌鼬のような鋭い刃として、太めの血管だけを切り裂く。
心臓が動いている間に、できるだけ多くの血液を絞り出し、素材として高価な値がつく血液を一滴でも多く確保する。
魔法袋に保管するから、変質したり劣化したるする心配がないのだ。
絶対に確保したい魔宝石は、売りに出す前に取り出しておく。
悪質な国や冒険者ギルドだと、強制徴収しかねないから。
全長二十五メートル体重は三十トンのブロントサウルスもどきの魔宝石よりは小さいが、輝きと美しさは成体ティラノサウルスもどきの方が上で、蓄えられる魔力量は成体ティラノサウルスもどきの魔宝石の方が多い。
想定外の美味しい魔宝石を二つも確保できたので、若竜と幼竜の五頭は放し飼いの心算で追い払う。
「人族の勇者殿、命を助けていただき心から感謝する。
お礼を差し上げたいので、どうか私達の村に来てもらいた」
金色のコボルトが話しかけてきたが、縁を結ぶ気は最初から全くない。
縁を結んでしまったら、問題ごとのフラグが立ってしまう事など馬鹿でもわかる。
だから無視して直ぐに飛び去る心算だったのだが……
「私達の村では人間が持ち込んだ疫病が広まってしまい、抵抗力のない年寄りや子供が数多く死にかけている。
疫病の治療薬を持っているのなら分けてもらいたい。
分けてくれるのなら、この命を渡しても構わない。
私はコボルトでも最上級種のゴールドコボルトだ、高値で売れるぞ」
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