第35話:鉱山奴隷の現状

 俺の話を聞いた兵士達は、不安と恐怖に苛まれたのだろう。

 全く口を利かなくなってしまった。

 俺も無理に話がしたいわけではないので、黙々と歩いた。

 人間が踏みしめただけの山道を四時間歩いて辿り着いたのは、案の定隠し鉱山だったが、何も教えられることなく乱暴に厳重な柵のある入口から押し込まれた。


「今日の新入りは一人か、三人ほど死んじまったから、もっと連れて来てくれ」


 鉱山の責任者だろう兵士が、誘拐してきた若い女を左右に侍らせて、身勝手な言葉を口にした。

 女達の絶望と諦観の表情を見れば、どんな扱いを受けているのか分かる。

 それに、一日に三人も死んだという事は、ろくに食事も与えていないのだろう。


「……分かっている」


 俺を連れてきた三人の兵士が、恐怖を隠すことなく怯えた声で返事をする。

 こんな場所にまで、天罰の噂は広まっているのだろう。

 エクセター侯爵の話など、俺が行ってきた幾千もの天罰の一つにすぎない。

 悪事に加担している者ほど、そう言う噂には敏感だ。

 だからといって悪事を止めないのだから、度し難い馬鹿だ。


「おい、おい、おい、何をしょぼくれているんだ。

 せっかく護送の役得でここまで来たんだ、いつも通り女をいたぶり抱いていけよ」


 その言葉を聞いて、絶望と諦観の表情を浮かべていた女達が、今度は恐怖の表情を浮かべている。

 この兵士達は、女を痛めつけて犯し快楽を得ていたという事か。

 だとすれば、受けるべき天罰も決まってくる。

 しばらく様子を見て、黒幕や真犯人を見つける心算だったが、その間に被害者が死んでしまったり、苦痛を受け続けるのは許せない。


「いや、いい、今日はいい、このまま砦に戻る」


 三人のうちの一人が、恐怖にひきつった顔で俺の方に視線を送ってくる。

 意外と勘がいいのかもしれない、逃げだそうとすることも哀願する事もなく、堂々と息も切らさずにここまで来た俺の事を、天罰関係者だと思ったのかな。

 まあ、だったら今直ぐ思いしらせてやるよ。

 経穴を組み合わせれば、嘘偽りを口にする事ができなくなって、真実を口にするしかなくなるから、時間をかけなくても黒幕は分かる。


「今までやって来たことを、この程度の事で誤魔化せると思うなよ」


 俺はそうはっきりと口にすると、電光石火の速さで三人の兵士と下種な鉱山責任者の経穴を突いた。

 身体中が常時震えて、武器を持つ事もできなければ逃げることもできないように。

 更に一時間おきに激痛に襲われ、一時間以上寝ることもできなくなるように。

 自殺して苦痛から逃れることができないように、顎の筋力を舌を噛み切れない最低限にした。

 たとえこの後直ぐに誘拐された人達ぶち殺されることが分かっていても、俺はやるべき事はやっておく性格なのだ。

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