第34話:奴隷狩り

 俺は普通の旅人として脇街道を旅していた。

 数日前に泊まった宿で、人攫いが横行している脇街道があると聞いたからだ。

 他人を囮にして様子を見る方法もあるのだが、ミュンと出会ってからはそんな方法は卑怯だと思ってしまうのだ。

 自分の行動が他人に影響されて変わるとは思ってもいなかった。

 自分にも人間味が残っていたのだと分かり、うれしいような腹立たしいような、何とも言えない気持ちになってしまう。


「おい、待て、我々はロング子爵家の巡視隊だ。

 不審な点があるから詳しく調査する、砦までついて来い」


 最初からいるのは分かっていたが、堂々と名乗るとは思っていなかった。

 俺の記憶と途中の宿で聞いた話を総合すると、この脇街道で一番怪しい貴族。

 とても金遣いが荒く身勝手だと評判の貴族、それがロング子爵家の当主ジャックだが、堂々と名乗るという事は俺を逃がさない自信があるのだろう。

 強者の気配を完全に隠しているとはいえ、人を見る目がない連中だ。


「グズグズするな、さっさと歩くんだ」


 十一人いた兵士のうち、俺の監視と護送には三人が当てられた。

 前を歩く奴が一人に後ろを監視しながら歩く奴が二人。

 槍を突き出して俺を怯えさせて喜んでいる最低の屑だ。

 普通に子爵領に連れて行くつもりなら、脇街道を進むだろう。

 監視のための関所や番所なら、脇街道から離れた場所には作られない。

 誰かに見られては困る所に連れて行くつもりだと、山を登ればすぐに分かる。


「おい、なにか話せや、面白い話をしたら取り調べに手心を加えてやるぞ」


 全く手心を加える気がないのに、いや、そもそも取り調べなどせずに強制労働させる気なのに、嗜虐心を満足させるために脅してくる。

 この場でぶち殺したい気持ちになるが、それでは真犯人を確かめられないので、グッと我慢して何か話すかない。

 だが巧みな話術など持ち合わせていないから、よくある噂話をするしかない。


「そうですね、悪事を重ねていたエクセター侯爵が殺された話は知っていますか」


 俺の言葉を聞いて、嗜虐心を満たそうとしていた兵士が動揺している。

 自分達が悪事に加担している程度の自覚はあるようだ。

 悪事を働くモノに天罰を加える者がいることを知っているようだ。


「ああ、知っているぞ、それがどうかしたのか」


 別の兵士が言葉を失った馬鹿の代わりに返事をしてきた。

 こいつの方がまだ度胸があるのだろう。

 だがこれからの話を聞いて、その度胸が続くかな。


「私はエクセター侯爵本人が殺されるだけで天罰は終わったと思っていたのですが、最近警戒厳重なエクセター侯爵の城に盗賊が入って、家宝から金銀財宝まで、全てを盗まれて没落の危機に陥っているとの事です」


 少し度胸のあった人間も、流石に言葉を失ったな、止めを刺してやろう。


「それに、エクセター侯爵の悪事に加担していた人間は、上は家老から下は一兵卒まで、全員殺された事は御存じですか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る