第6話:恐怖
「目が覚めたかい、もう大丈夫、なんの心配もいらないよ」
最初ミュンは自分の置かれている状況が理解できないようだった。
まあ、当然だろう、俺が眠らせている前は殺されかけていたのだから。
もしかしたら全部夢だと思ってくれるかもしれない。
そうすれば遠くの街で自由にさせてやることが可能だ。
いや、流石にそれは領主殿の力を甘く見過ぎているな。
自分の怠惰で、良識ある領主にミュンを殺させるような真似をさせてしまったら、今までの自分の人生を全否定することになる。
「……ブルーノさん!
御無事だったんですね、ブルーノさん、本当によかった、よかったです」
自分の事よりも、ただの荷役だった俺の事を心配してくれる。
こんないい子には、幸せな人生を送ってもらいたい。
いい子を幸せにするための支援なら、惜しみなく与えることができる。
今までは悪人を殺すだけに力を注いできたが、これからは善人を支援する事にも力を注いでいきたい。
自分一人ではできなかった事も、ミュンが手助けしてくれたらできるかも知れないが、無理強いするのは嫌だし……
「心配してくれてありがとう、ミュン。
実は俺、領主殿に頼まれて勇者パーティーと冒険者ギルドを探っていたんだよ。
そして実際奴らにボス部屋に閉じ込められて生贄にされた。
実力不足のあいつらの身代わりとしてね。
その下劣な行いには、ギルドマスターも幹部職員も加わっていたんだよ。
だから勇者パーティーを糾弾しようとするミュンを殺そうとしたんだ」
俺がそう言うと、殺されそうになった時の恐怖が蘇ったのだろう。
ミュンはブルブルと胴震いして、キョロキョロと周りに視線を送った。
本能と無意識の反応だろうが、刺客が潜んでいる事を恐れたのだろう。
それでも、恐怖に歪み真っ青になった顔を理性と気概で引き締め、キリリとした表情で俺に話しかけてきた。
「だから、だから私をあんな中途半端な時間に帰らせたのですね!」
「そうだ、密かに口を封じようとしたのだろうが、俺が捕らえて領主殿に引き渡したから、もう何も心配はいらないよ」
「領主殿は勇者パーティーと冒険者ギルドをどうされるのですか?」
「表立って処分をしたら、敵対する貴族から冒険者ギルドの管理不十分で責任を問われる可能性があるから、内々で処分することになった」
「私はどうなるのですか?
全てを知っている私も処分されるのでしょうか?」
ミュンがとても怯えている。
やっと戻った顔色がまた真っ青になり、止まっていた胴震いがまた始まった。
正義感はあっても荒事には慣れていないのだ。
直ぐに安心させてあげなければいけない。
そして頼まなければいけない事もある。
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