第4話:証人
「ヒィィィィ」
ミュンが奇麗な女性とはとても思えないような悲鳴を上げてドアから離れる。
部屋の中で待ち構えていた二人の刺客が一気に動いた。
逃げる可能性も考えていたのだが、ミュンを殺す心算のようで、殺気を放ちながら素早くドアの方に駆けてくる。
俺は流れるような滑らかな動きでミュンとドアの間に入る。
ダッーン
もう気配と隠す事も物音を抑える事も辞めた二人の刺客が、ドアを吹き飛ばして表に出てきたが、何の問題もない。
この程度の刺客など片手間で返り討ちにできる。
いや、勇者パーティーとギルドの悪事を立証するための証人として、生かして捕えなければいけない。
だがそれも全く何の問題もなくやれる。
「うっ、ぎゃ、ゴッフ」
殺したり後遺症を残したりしないように、証言の際に拷問による無理な自白だと反論されないように、意識だけ刈り取る。
ほんの少しの力で気絶させられる急所に掌底を加え、そこから魔力を流し込んで指一本動かせないようにした。
口に含んだ自殺用の薬が使えないように、一時的に神経のつながりをズタズタにして、三日間は全く動けない状態にした。
その上で念のために強固な縄で縛り、睡眠魔法で七日七晩目が覚めないようにして、空間魔術で創り出した亜空間に閉じ込めた。
「大丈夫ですか、気を確かに持ってください」
本当はこのまま姿を隠したかったのだが、ミュンが腰を抜かして座り込んでいる。
粗相はしていないようだが、正気を失っているのは間違いない。
このまま放置してしまったら、トラウマが一生残ってしまうかもしれない。
今心を癒してあげれば、心に受けた傷が一生残る事はないだろう。
そう思って声をかけてあげた。
「今ドアを元通りにしてあげますから、厳重に鍵を閉めて中にいてください。
窓も鎧戸を下ろせば誰も入って来れません。
いいですか、大丈夫ですか、気をしっかり持って中に入るのです」
叱咤激励して自分の部屋に入るように言って聞かせたが、全く動かない。
仕方がないのでほんの少しだけミュンの経絡経穴に魔力を流してやる。
乱暴な人間なら、頬を張ったり気付けの経穴に痛みを与えたりするのだろうが、それではトラウマが残る可能性がある。
ミュンの傷ついた厥陰心包経と少陰心経を癒すように魔力を流し、元の正義感が強くて優しい性格のままでいられるようにした。
「ドアは修理しましたから、もう大丈夫ですよ。
私はこれで失礼しますから、部屋でゆっくりと休んでください」
「あああああ、アアアアアア、ウワァアアアアン、いかないで、一人にしないで」
困った、ここまで号泣されたら立ち去れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます