第3話:襲撃
正直どうすべきか少し迷った。
勇者パーティーを追いかけて確実な証拠をつかむか、それとも受付嬢のミュンを護るために隠形して冒険者ギルドに残るかを迷った。
勇者パーティーの誰がミュンを殺すかが分からない。
もしかしたら自分達の手は汚さずに暗殺者に依頼するかもしれない。
六人がバラバラの行動をしたら、俺一人で追うのは不可能だ。
何よりも勇者パーティー以外の者がミュンを狙った時が危険だった。
「お先に失礼します」
ギルドマスターがミュンに裁判に備えて早退するように命じた。
明らかにおかしな行動だった。
本当に裁判に備えるのなら、勇者パーティーともめた後すぐに帰すはずだ。
それを今頃になって、通りに誰もいないような時間に、他の冒険者ギルド職員と一緒に帰れないように早退させる。
どう考えても帰り道で殺すための命令だ。
「……」
その証拠に、ミュンに挨拶されたギルド職員が露骨に視線を外す者がいる。
ほとんどの者が無関心だが、中には顔色を悪くしている者がいる。
まだわずかに良心を残している者が、心の中で恥じているのだ。
良心の呵責に耐えきれず、その気持ちを表情に出してしまっている。
さて、犯人探しよりもミュンを護る事を優先しなければいけない。
必ずミュンを護りきらないと俺の面目が丸潰れだ。
「大丈夫、人通りの多い所を歩けば大丈夫」
ミュンも自分が狙われている事に気がついているようだ。
なかなか頭が良い子のようで安心した。
これなら多少事情を話しても大丈夫だ。
ここだけの話と言って、秘密をペラペラと話してしまう事はないだろう。
俺が暗殺者を返り討ちにしている所を見ても、誰にも話さないだけの分別があるはずだから、余裕を持って迎え討つ事ができる。
「本当に危険だと思ったら、お金は大変だけと、ホテルに泊まればいい。
ホテルに泊まったら、人目があるからそう簡単に手が出せないはず」
不安が独り言を口にさせているが、この程度の考えしか思いつけないのが、一般人であるミュンの限界だろうな。
裏社会に生きる刺客や暗殺者は、場所がホテルであろうと人に悟られないように殺しができるのだ。
それだけの技量を持つ者でなければ、そもそも刺客や暗殺者は務まらない。
まだ殺気は感じられないが、俺の感覚を掻い潜るような凄腕がいるかもしれない。
隠形はそのままで変装もしておこう。
ミュンは頭がいいから、何度も荷役として顔をあわせている俺を覚えているかもしれないからな。
「ああ、すみません、そこは貴女の部屋ですか。
さっきその部屋に忍び込む者を見かけたんですが、心当たりはありますか?」
ミュンが借りている部屋であろう所まで、刺客が襲って来ることはなかった。
だがミュンが借りているであろう部屋の中から二人分の殺気を感じる。
このまま一人で部屋に入らせてしまったら、ミュンは殺されてしまう。
仕方ないから隠形を解いて声をかけ、部屋に入るのを止めた。
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