第2話:受付嬢とギルドマスター

「なんですって、また荷役の子を見殺しにして逃げてきたですって!」


 ここの冒険者ギルドの中では珍しく正義感が強い受付嬢のミュンが、血相を変えて勇者パーティーを怒っているが、あいつらはどこ吹く風だ。

 教会の後押しがあり、冒険者ギルドの幹部ともズブズブの関係だからな。

 よほど証拠を固めないと、不正の摘発など不可能だ。

 今俺が隠形を解いて証言しても握り潰されるのがオチだ。


「おい、おい、おい、人聞きの悪いことを言うんじゃない。

 俺達はドジでノロマな荷役を必死で助けようとしたんだ。

 レッドドラゴンが襲ってくるのを、命懸けで戻って助け起こしたんだ。

 だが相手がレッドドラゴンじゃあな、何度も転ばれちゃ限界がある」


 過去の供述調書を調べてみたが、いつも同じ内容の現状報告だった。

 強力なモンスターと遭遇して撤退しようとしたが荷役がドジで転んだ。

 それを助けようと命懸けで戻ったが、ドジな荷役が二度三度と転び、仕方なく助けるのを諦めた。

 普通ならそう何度も同じ供述は通用しないんだが……


「そんな嘘が何時までも通じると思っているの、私は誤魔化されませんよ」


 ミュンが断固とした態度と言葉で、勇者パーティーを相手に一歩も引かずに戦っていますが、後ろからギルドマスターが近づいてきました。

 俺が勇者パーティーと癒着してると目星をつけていた男です。

 殺意の籠った眼をして後ろからミュンに近づいてきます。


「何をもめているんだね、ミュン君。

 君には何度も言って聞かせたはずだよ。

 アーサー君達はこのギルド一番の稼ぎ頭なんだ。

 聖女ジュリアには教会の後ろ盾があるんだ。

 君ごときがいくら騒いでも誰も信じたりはしないのだよ」


「ですがマスター、これはあまりにも酷過ぎます。

 いったい何人の荷役が死んだと思っているのですか。

 三十二人ですよ、三十二人もの人達がこいつらの犠牲になったのですよ」


「おい、おい、おい、さっきから何度も言っているだろうが。

 これ以上勇者パーティーの名誉を傷つけるようなら、教会にも加わってもらって、正式の裁判を要求するぜ。

 そうなったらアンタもただじゃすまないぜ、受付嬢さんよ。

 ギルドマスター、今日の事は教会を通じて正式に抗議させてもらうぜ」


 これは出来レースだな。

 ミュンを冒険者ギルドから追放して公的な身分を剥奪する。

 その上で人目のない所で殺して口を封じる。

 もしかしたら過去に同じような事を何度も繰り返していたのかもしれない。

 そうでなければ他の職員のここまで怯えた目をするわけがない。

 新人で正義感の強いミュンだけが、このギルドの裏の顔を知らなかったのかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る