第16話 お布団裁判

「いやー、やっぱり温泉はいいなぁ」


 ゆっくりと浸かりながら俺は呟いた。

 福岡にも温泉はあるのだが二日市などちょっと遠いのと市内にある温泉は一回いくらではなく1時間あたり500円と割高なのでもっぱらスーパー銭湯で済ます事が多い。

 大きな風呂やサウナに電気風呂なども良い物だけどやっぱりたまには天然温泉に入りたくなる。


 ちなみに福岡にあるふくの湯はいい銭湯なんだけど聞いた話によれば元々湯楽亭というスーパ銭湯がありそこに対抗して福重の湯という銭湯ができたがその2軒を駆逐したのがふくの湯らしい。


 昔からの銭湯マニアには有名な話なんだとか。


 そんな事を考えながらゆっくり温まり浴衣に着替えて部屋に戻ると...端の布団で大の字で浴衣姿の幸子が寝ていた。


「えっ?未来さん動かした?」


 と俺が聞くと。


「いいえ、お母さん先に上がったんですけど部屋に戻ったらすでにこの状態で...」


 と答えるこれまた浴衣姿の未来さん。


「しょうがないなぁ」


 と、幸子を抱えようとしたらガシッと手を掴まれた。


「よく寝てるのでこのままにしておきましょう」


 と言われたが。


「いやいや流石に不味いだろう」


 と俺が言うと未来さんが俺の腕を抱いて。


「こ の ま ま に しておきましょう」


 と上目遣いで言ってきた。


 凄い圧を感じた俺は。


「...はい」


 としか言いようがなかった。


 ...


 結局俺が真ん中、左右に幸子と未来さんと言う配置で寝ることになったので俺は若干幸子寄りの方に寝転がって布団を被る。


「むにゃむにゃ、昭彦くん好きぃ...」


 幸子の寝言に微笑ましく思っていると背中の方、未来さん側の布団が動いて背中にピタッと暖かい感触がして。


「私も昭彦さん好きぃ」


 と声が聞こえて来た、おいおい不味いって。

 俺はクルッと振り向き。


「何やってんの未来さん?色々とヤバいから」


 と言うと未来さんは。


「ごめんなさい、お母さんと昭彦さんの仲を引き裂こうとか思ってはいないんですけど好きって声が聞こえたから私も昭彦さんを好きじゃ負けてないって思ったら...つい」


 はぁ...その気持ちは嬉しいけど実際に行動に出るのは不味いだろう。


「ありがとう、嬉しいけどちゃんと自分に布団に戻りな」


 俺がそう言うと。


「じゃあ抱いてくださいとは言いません、ハグして撫でてくれませんか?...ダメ、ですか?」


 うぐ、またも上目遣い。

 しかも俺の胸の中で布団の中だ。


 仕方ないなとハグして頭を撫ぜる。


「良い子だからちゃんと寝るんだよ?」


 と言って離そうとした瞬間、後ろから未来さんごと抱きつかれた、むう...幸子の抱きつき癖が出たか。


 後ろからギュッとされてるせいで未来さんを離すことが出来ないでいると未来さんも手を伸ばしてギュッと俺に抱きつく。


 うぐぐ、前も後ろも幸せな感触がしてるんだけどこのままだと...。


「あっ!?」


 未来さんが声を出す。

 気付かれてしまったか。


 未来さんを見ると顔を真っ赤にして。


「昭彦さん...凄く硬いです」


 と言った。

 流石にこの状況だと当然のように反応してしまって俺自身ジュニアが硬く臨戦態勢になってしまった。


「ご、ごめん。

 状況的にちょっと反応しちまった」


 と俺が言うと。


「お手伝い...した方がいいですか?」


 と、さっきより真っ赤になりながら言ってきた。

 流石にそれは許容できない!

 俺はそっと幸子と未来さんの間から抜け出すとそそくさとトイレへ。


 ...


 世界の理とはいったいなんなのだろうか...。


 おっといかん!思わず賢者になってしまっていた。

 トイレでそっと俺はスッキリとした顔でトイレを出たら布団で上半身を起こした状態で顔を真っ赤にした未来さんが待っていた。


 緊急の為さくっと処理して来たのだが俺がトイレで何をしたかなんて想像に容易い。


「あ...」


 それに気づいた俺もつい赤面してしまう。

 夜の闇の中何故か顔を赤くして佇む二人、どうしてこうなった。


 布団に戻った俺は未来さんの頭を撫ぜながら。


「さ、明日は大事な日だし本当に布団に戻って眠りな」


 と、俺が言うと。


「ありがとうございます、おやすみなさい」


 そう言った未来さんがスッと近づいてきて。


 チュッ


 と、頬へ口づけして自分の布団に戻っていった。


 唐突にキスをされた俺は上体を起こしたまま暫く固まって居た。


 はっ!?俺は今何を?


 俺はブルブルと頭を振って正気を取り戻すと布団に境目に転がっている幸子を真ん中の布団に寝かせ俺自身は未来さんとは反対の端の布団に入って目を瞑った。


 柔らかかったなぁ...


 ウツラウツラとしながらなんの気無しに思った事がそれだった。


 いかんいかん、俺は大人だ。

 盛りのついた中坊じゃあるまいし何考えてるんだよ?


 そうやって冷静を保とうとすればするほど色々頭がごちゃごちゃしてきてついつい1年前の事を思い出してしまった。


 一年前に...抱いて...キスもしたんだったな...。


 そんなモヤモヤした何かを抱えつつ俺は眠りに落ちていった。


 その夜に見た夢は...悪夢、なのか?


「裁判長!被告は婚約者がありながらその娘とイチャイチャすると言う罪を犯しました!

 厳重な罰をお願いします!」


 検察席にいるのは幸子。


「裁判長!全ては娘側からのアプローチです!罰するなら娘を!」


 と、弁護側に座る未来さん、いや娘側って君本人でしょ?


 その後検察側、弁護側双方とも色々言った後。


「静粛に」


 と裁判長が言った、どこかで見たことあるんだよなこの人、えらく若いけど。


「判決を申し渡す、被告人関昭彦は...」


 そこで目が覚めた。

 え?裁判の結果は?俺どうなるの?


 携帯の画面をつけると時刻は午前3時、夢のせいで変な時間に起きてしまったようだ。


 どうする?夢の続きを見たいと思いながら寝るべきか?

 と思った瞬間思い出した。


 あの裁判長、幸子の亡くなった旦那さん...未来さんの実父じゃないか!


 何か怖くなった俺は夢の続きを見ませんようにと祈りながら瞼を閉じた。

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