第15話 卒業しても卒業しない
あの後赤身のステーキ200gとサラダ、スープを堪能した俺たちはうちに帰り軽く晩酌をして眠りについた。
翌日の日曜日はのんびり過ごして週明けから労働に勤しんでいるうちに卒業式の前日になった。
「じゃあ二人が仕事行ってる間に袴取りに行って来るね」
朝俺たちを送り出した未来さんがそう言って見送ってくれた。
「そうね、今日のうちに熊本に移動しておかないと明日慌ただしくなっちゃうわね」
そう、幸子が言う通り仕事終わりで三人揃って熊本へ行き宿を取ってゆっくりする予定なのだ、宿も未来さんが手配してくれた。
そして定時で上がり幸子と共に家に帰ると未来さんが準備万端で待っておりさっと着替えて式用のスーツを引っ掴むとそのまま車に乗って熊本へ。
例によって基山パーキングには寄るがいかんせん早めに行ってチェックインをしないと行けないのでこの前よりは急いで向かう。
やがてホテルに着き未来さんがチェックインをするのを待つ。
「チェックイン終わりました」
そう言って笑顔で戻ってきた未来さんの手には一本の鍵。
ん?一本?
「空き部屋が少なかったので和室に三人です、夜は川の字で寝ましょうね」
と、跳ねるようにエレベーターへと先導して歩き出す。
部屋に入ると中は大きな和室になっていてテーブルにはお茶セット、時間的にもう布団が3つ川の字に敷いてある。
荷物をおろした俺たちは夕食を取るために街へ繰り出そうと思ったのだが未来さんが。
「ちょっとお手洗い行って良いですか?」
と言うので。
「じゃあロビーで待っておくよ」
と、鍵を置いて幸子とロビーへ、オートロックがかかるのを確認してエレベーターで降りる。
「何か食べたい物ある?」
と俺が聞くと。
「折角熊本なんだし馬刺しとか食べたいじゃない?
オススメの居酒屋とかあれば行きたいかな?」
という事で学生時代から行きつけの居酒屋に予約の電話を入れる。
「お待たせしましたー」
未来さんが降りてきたのでフロントに鍵を預けてタクシーで居酒屋に向かう。
「らっしゃい!」
馴染みの大将が声をかける。
あ、やべえ!
俺は厨房の出入り口に行くと大将を呼ぶ。
「大将久しぶり、まず状況を説明するがあの子、前に連れてきた子な。
あの子俺の彼女の娘だったんだよ、元から知り合いって彼女は知らないからそう言う体で頼む」
地元でよく来る店、当然未来さんとの会食でも一度使っていたのだ。
「ああ?娘だ?
あれ姉じゃないのか?」
訝しげな大将に。
「聞いて驚け、彼女俺らと同い年だからな?」
と若干自慢げに言う俺。
大将というが彼は2代目、しかも俺の大学の同級生なのだ。
俺が大学時代から通ってた理由がそれ、その頃は親父さんが大将だった。
「なんか複雑な話だけどわかったよ。
お前のことだ、別に娘の方に手を出したりはしてないんだろ?」
「あ、ああ!」
前に連れてきたのは1年以上前、当然あの夜の前で俺とフォーチュンさんは程よい距離感で会食をしていたはず、あの時はまだフォーチュンさんはソフトドリンクだったしな。
「なんか歯切れわるいなぁ、まあいい。
わかったよ、前にお前が連れてきた事は無かったって事にしといてやる。
その代わり売上に貢献してくれよ」
という友の言葉に胸を撫で下ろす俺だった。
安心して席に戻る俺、すると幸子が。
「どうしたの?急に」
と言うので。
「ここの大将同級生なんだよ、ちょっと積もる話がね」
その瞬間未来さんが。
「お久しぶりです大将」
と言った。
ちょっとこの子何言ってくれちゃってるの!?
と俺の顔から血の気が引き始めた時。
「一年ちょっと前かな?サークルで来たんですけど覚えてます?」
と、幸子と逆の目でパチリとウィンクする。
ああ、なるほど、こうして言っておけば酔って過去話なんかしても自然って訳か。
というか俺と大将がどんな話してたか察しがついてたのね。
「おー!覚えてるぞ。
あの時はソフトドリンクだったけど飲めるようになったのかい?」
大将も話を合わせてくれたところでトリアエズナマじゃなかったとりあえず生を頼んで馬刺しや焼き鳥を注文する。
「相変わらず美味いなぁ、よく親父さんの味引き継げたな」
という俺に。
「何言ってんだ、親父の料理を一番食ってたのは俺だぜ?」
と笑顔で答える大将。
そんな俺たちを微笑ましく見守る幸子と未来さん。
酒もすすんで幸子も未来さんも注文時は俺の腕に抱きつく感じでメニューを覗いてくる。
あ、大将の目が冷たい。
『お前、本当はやっちゃってるんじゃないの』
って感じで見てくるので。
『俺は潔白だ』
という感じで見返す、まぁ関係はあったんだけど。
そんなこんなで美味しい食事とお酒を堪能したのだが明日の卒業式に響くと行けないのでほどほどでお開きにしてホテルへ帰ることに。
帰り道幸子がコンビニに寄るという事で外で待ってる間に。
「明日で学校は卒業ですけど昭彦さんからは卒業しませんからね」
と、未来さんに言われてしまった。
そんなこんなで複雑な心境でホテルに帰った俺たちを待ち構えていたのは...3つピッタリとくっついた布団だった...。
俺はそっと未来さんの方を見ると、テヘペロって感じで舌を出す未来さん。
やっぱり君の仕業か。
「あら良いじゃない、親子川の字って感じね」
酔った幸子はノリが良いので普通に受け付けてるけど俺はちょっと酔いが覚めてしまった。
「まぁ真ん中は私が寝るけどね」
という幸子の言葉に安心して俺たちは大浴場の温泉に入って寝ることにしたのだ。
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