第13話 安眠グッズ

「じゃあトイレ済ませたらコンビニの前に集合な」

 そう言って俺は車を停めた。


 基山パーキングエリア、福岡から九州自動車道に乗って南下するとジャンクションである鳥栖の直前に位置する為熊本鹿児島方面だけじゃなく大分や長崎方面に向かう人も寄れるため利用客の多いパーキングエリアだ。

 大型エリアには多数の観光バスも見える、バスツアーのトイレ休憩のメッカでもあるのだ。


 朝食のあと幸子の提案で熊本に向かう事にした俺たちは愛車のアルファードに乗り込むと都市高速経由で九州道に乗り、今はトイレ休憩中だ。


 例の事件のあとすぐに引っ越す必要性があったので未来さんの部屋は家具家電付き、元の部屋で使っていた家電などは処分して引越し代の足しにという事だったので引き払うと言っても大きな荷物はないはずだ。

 これで冷蔵庫だの洗濯機だの運ぶのであればトラックなりハイエースなりを借りるところだけどな。


 車に戻った俺たちはそのまま九州道を南下して熊本インターへ。

 インターを降りた後もスイスイと未来さんのマンションへと向かう。


「流石熊本出身だねー、ナビも設定しないでスイスイと行けるなんて」


 という幸子の言葉にドキッとする、そもそも俺が決めたマンションだしなんやかやと送ってきたりで通い慣れた道なので慣れた調子で走ってきてしまったがよく考えたら不自然だった。


「そ、そうだな。

 割と地元に近いところだからな」


 そう言って誤魔化しはしたが内心ドキドキだった。


 やがて未来さんのマンションに着く、オートロック完備の割に家賃は高くはないがセキュリティに力を入れたマンションだ。


 来客用のコインパーキングに停めて玄関へ。


 オートロックを解除しエレベーターで5階へ。


「こんな良いマンションだとは思わなかったわ、これであの家賃なの?」


 流石は不動産業だけあって幸子のチェックが入る。


 正直にいうとここはうちの管理物件ではないのだが馴染みの大家さんの繋がりで他の入居者より若干安い値段で貸してくれていたのだ。


「ここを段取りしてくれた人の伝で安くしてもらったみたい、それもあるから引き払うのも正解かもね」


 と、未来さんがいうが別に俺も大家さんも全く気にしていないので会えなくなったところで後一ヶ月住んでも全く問題ないのだけれど俺=好きな人という事実を伝えない状態ではそれが自然なのかもしれない。


 そんな話をしながら未来さんの部屋に入り持ってきていた段ボールを組み立てる。


 その横には熊本市の指定ゴミ袋も準備済み、持って帰る物と処分する物を選別して行く。


 流石は女子大生、持ち帰る物のほとんどが服、綺麗に畳んで段ボールに詰めていくとざっと3箱。

 あとは俺と共通の趣味である小説だがこれもコレクションとして持っている物や知り合いの作家さんの作品以外は電子化した物で所有しているらしく思ったより無かった。

 あとは小物関係を詰めれば全部で5箱、予想通りの量でアルファードの3列めを倒せば余裕で積載出来る。冷蔵庫の中のナマ物は勿体ないのでお昼ご飯に使ってしまおうと昼にしてはなかなか豪華な食事になった。


 正直な話1年前の引っ越しで不要なものは処分してあったのでなんの心配もしてなかったんだけどな。


 食後ゆっくりしてから出来上がった荷物を運び出す。


 エレベーターがあるので俺が何度も往復して運んでる間に幸子と未来さんで大掃除をしてもらう。


 家事スキルの高い二人に任せた事で俺が荷物を粗方運んだ頃には掃除も大体終わってしまった。


「さてと」


 大荷物は運んでしまったのであとは各自手荷物を持って車に戻ろうとするが未来さんの手には大きな熊のぬいぐるみが。


「あら?あんたそんな少女趣味あったっけ?」


 という幸子に。


「コレは持っていくの、私コレがないと眠れないから」


 そう言って俺に目配せしてくる。


 ああ、思い出した。

 最初の引っ越しの日、食事をした俺たちは近くにあったゲームセンターの前を通りかかるとこのぬいぐるみが取れそうな感じになっていたからやってみたら一発で取れたんだった。


 かと言ってこんなおっさんが熊のぬいぐるみなんか持って帰っても仕方がないのでフォーチュンさんにあげた物だったなぁ。


 もう2年も前だし所詮ゲーセンのぬいぐるみだからだいぶんボロボロになっている。


「結構傷んでるな、

 今度俺が新しい縫いぐるみを買ってあげようか?」


 俺がそういうと幸子がチョンチョンっとおれをつついて。


「昭彦くんこれって多分そういうのじゃないっぽいよ?

 例の好きな人から貰ったとかじゃないのかな?」


 と、小声で話す。


 ヤバっ!俺の中では普通に例の男=俺で認識してるけど幸子は違うよな。


「ああ、ごめんごめん。

 嫌だったら良いんだ、変なこと言ったな」


 俺がそう言い訳すると未来さんは。


「じゃあ昭彦さんに抱き枕買ってもらおうかな?

 これは一応思い出の品だから」


 そう言ってぬいぐるみが着ていた服のボタンを切り取って。


「これを残しておきます」


 と言って笑った。


 そのあと一路福岡へと戻った俺たちは荷物を未来さんの部屋に運び込んだところで。


「さてあたしは夕食の支度するからその間に抱き枕買って来ちゃえば?」


 という幸子の提案に乗ってお値段以上のお店に向かっていた。


「ボタンを取っておくって言ってもぬいぐるみ結局捨てることになっちゃったからすぐに買ってあげた方がいい気がするわ」


 と俺にだけ言ってきた幸子の言葉がきっかけだ。


 しばらく店内を見て周り抱き枕が決まったところでお会計してプレゼントした。


「ありがとうございます!大事にしますね!」


 そう言って眩しい笑顔で喜ぶ未来さん。


 そこそこ大きいので後部座席に突っ込んで家に帰って下そうとしたら駐車場のカーポートの出っ張りに引っ掛けてシャツの袖を破いてしまった。


「うわっやっちゃったなー。

 まあ結構着古したやつだからもう捨てちゃって良いか」


 と俺がいうと目をキラキラさせた未来さんが。


「捨てるんだったらそのシャツいただけませんか?

 丁度抱き枕カバーを作るのに丁度いいサイズですから」


 と言うので。


「じゃあ洗ってからあげようか」


 と言うと。


「いえいえお気になさらず!ささ!家に入って着替えましょう」


 と抱き枕を抱えて俺の背中を押す。


 家に入ると幸子から着替えを受け取り追い剥ぎのように着替えさせられてしまった。


 そして。


「私がいいと言うまで決してこの扉を開けてはいけませんよ?」


 そう言って部屋に篭ってしまった。

 一体何の恩返しなんだよ?


 しばらくして部屋から出てきた未来さんは満面の笑みだったけどカバーのついた抱き枕のお披露目は無かった。


「昭彦さん、買っていただいた抱き枕のおかげで今日からぐっすり眠れそうです!ありがとうございました」


 夕食の時にそう言われて俺も幸子も笑顔になったのだがまだ俺は知らない。


 この後ふとした拍子に見えてしまった未来さんの部屋のなかにがついた抱き枕を見てしまい戦慄する事を...。


 えーっと...ヤンデレの気とか無いよね?

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